竜殺しのふたり
こむぎこ
第1話
愛あればこそ、おれはそばにいてはならない。
その信念がおれと姫をどうしようもなく切り裂いた。
竜殺しの聖剣に選ばれた姫と、その鞘に選ばれた騎士として、旅をしてきた。
竜神を討ち取るまでの、誓いのもと、ともに歩んできた。
絶大な力を発揮する聖剣の使い手と、過剰なほどに魔力を供給し聖剣を休ませる対の鞘の使い手として、歴代のかれらと同じように愛もあれば情もあった。
旅路は過酷なものであったけれど、好きあっていたのも事実だった。
竜神を討ち取ったのちも、ともにそばで過ごそうとひそかに誓い合っていた。
姫を幸せにしたいと思った。幸せでいて欲しいと思った。
そして、それができるようなおれではないと、思い知った。
眼前に迫るは小竜の群れ。かわるがわる繰り出される攻撃をひたすらにいなしながら、後悔のような思考は途切れ始める。
徐々に押し込まれつつあるけれど、隙の多い奥の手はまだ使えない。使うのなら、せめてこの付近の小竜すべてをひきつけきれていなければならない。
右手の鞘で竜の攻撃をまとめてはじいた隙に、左手で小剣を投擲し、遠くの竜の注意を集める。
遠くの竜の目にあたり、注意がこちらを向く。
「よし」
数が増して苛烈になる攻撃の密度に、そろそろ耐えきれなくなり始めた。
「考え事ばかりもしていられない」
姫との長かった旅路のなかで、捌ききれなくなるタイミングというのも掴めるようになった。
ここから、およそ呼吸みっつ分。
息をひとつ吸って、鞘に過剰に魔力を流し込める。左腕から魔力が吸い取られ痛みが迸る。
呼吸ふたつ目に、竜の攻撃をいなしながら、鞘は赤く赤く光を放って。
みっつ目の呼吸に、鞘の限度を超えるほどの魔力の暴走を合わせて。
鞘を振るう。
極光。轟音。それから爆風。
鞘にむりやり過剰に流し込まれた魔力の暴発は、俺の鎧や硬い竜の鱗すら貫いて。
屍を九つ、作り上げた。
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