宴会

@tibor

第1話

優太は小学校が終わり家に帰る途中だった。家の前に着くころ、後ろから車がライトを照らしながらスピードを落として近づいてきた。優太の隣で止まった。助手席の窓が下がると同時に、運転席から父の声が聞こえた。

「町内会の人たちで宴会があるんだ。優太の友達も来るらしいぞ。行かないか?」

「行きたい!」

優太はそのまま車に乗った。

しばらくして、公民館に着いた。

すでに始まっているらしく、外に明かりが漏れている。

中に入ると、人数が多いのか、廊下を隔て、二つの広間で宴会が行われていた。子供たちが遊び回って移動するため、どちらも向かい合う障子は開いていた。

「あ、ひろき!」

優太はさっそく友達を見つけ、追いかけっこなどをしたり、友達が持参していたカードゲームなどで遊んだりもした。

目の前に食べ物とジュースが常に運び出され、食べながらゲームを楽しんでいるうち、優太は便意を催してきた。

「トイレってどこ?」

「廊下の一番奥だよ。」

両部屋の明かりで照らされた廊下を歩き、宴会の騒ぎの中、トイレに入った。

用を足している最中も、しばらくは宴会の騒ぎは聞こえていた。便座に座りながら、ゲームの続きの展開を考えているうち、優太は違和感を覚えた。

先ほどまでの大人数での騒ぎが、気付かぬうちにパタリと消えているのである。

不思議に思いながら、用を済ましトイレから出る。ドアを閉め廊下を見ると、優太は恐ろしい気持ちになった。

ついさっきまで大きく開かれていた両部屋の向かい合う障子が、どちらもピッタリと閉ざされているのである。また、廊下は障子越しからの淡い光だけで満たされており、うす暗く、伸びている。

優太は、他にも違和感に気づいた。障子に沿ってまばらに置かれていたスリッパが消えており、部屋のあかりが先ほどより若干オレンジがかっているような気がした。

優太は得体の知れない恐怖に包まれた。明らかな空気感が違いも感じ取った。足が震え出した。

人の影はどちらの広間にも見える。しかし、輪郭はよく掴めない。動いているものはおらず、全員が座っているように見えた。

耳を障子に近づけると、話し声のようなものが聞こえる。ただ、会話内容は全く聞き取れない。

優太は、人がいるのならば、障子を開けようと考えた。しかし、抵抗感があった。ここで開けたら、何か良くないことが起きる気がする、と直感的に感じた。

どうしてよいかわからず、優太は薄暗い廊下に1人たたずんでいた。しかし、このまま廊下にい続けても仕方がなかった。

そこで、自分から部屋に入る気が湧かないのなら、部屋にいるものに声をかけてみようと考えた。しばらく悶々としたのち、勇気をふりしぼり、言った。

「す、すいません。」

そう言うと、両部屋から聞こえていた小さな話し声が、パタリと止んだ。

そして、部屋の中の者全員がこちらに顔を向けたような気がした。直後、ドタドタドタと、中にいるものたちが立ち上がった音がして、多くの影が障子に近づいてきた。

優太は恐怖が頂点に達し、公民館の玄関にめがけて走り出した。後ろから障子を開ける音がし、無数の足跡はどんどん優太に近づいて行った。優太は後ろを振り返らず、玄関に着くと急いでドアを開け外に出た。

息切れしながら公民館から距離をとり、後ろを振り返った。誰もいなかった。

ドアは閉まっており、来た時には外に漏れていた公民館の広間の明かりは消えていた。

恐怖がおさまらず、優太はすぐさま駆け足で家に帰って行った。

チャイムを鳴らすと、父親がドアを開けた。母親もいた。

「よかった。夜遅かったから何かあったのかと思ったよ」

「こんな時間まで何してたの?」

安堵で涙が出て、父親に抱きついた。事情はまだ話さず、服に顔を擦り付け、ただひたすら泣き続けた。

車に乗っていたあの父親は誰で、あの宴会は何だったのかを考えながら。

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