僕だけの味方②

「くらぇぇぇ!」


ガトリング乱射。鉛玉の雨が百尼びゃくにを襲う。弾痕で道の舗装が次々と剥げていく。


「精度はイマイチだけどギャラリーが……流れ弾がいかないようにしないとねぇ。」


まだ周囲には逃げ遅れた人々がいた。


「だったらここはあえてぇ!」


百尼は機体に突っ込んでいく。


「なっ?!」

「ここまで潜り込んだら、逆に狙えないでしょぉ。」


腰を落として屈み、脚に力を溜め、一気に飛び上がる。


「ちぇりゃあああ!」


ガトリングにハイキック。銃身が曲がり、爆ぜる。


「ぬぁぁぁ?!」

「まず一つねぇ。」

「舐めんなぁぁぁ!」


機体の肩が開き、ミサイルがいくつも射出される。百尼は身をかわすが、かわした先についてくる。


「げぇ?!追尾性能あんのぉ?!ダルぅ!」


何発か直撃。


「ほげぇぇぇ!」


機体の腹部が開き、大弾頭のミサイルが顔を出す。


「コイツも、食らいやがれぇぇぇ!」


射出。煙を吐き円を描きながら百尼の元へ。


「さすがに、ソレはないでっしょぉい!」


逆にミサイルに向かってダッシュ。当たる寸前で左に避け、すれ違う。その瞬間、バックステップ。ミサイルの推進力に同調しながら、ミサイルを小脇に挟む。勢いを殺さずに体を一回転。弾頭の先を機体に向ける。


「は、はぁぁぁ?!」

「クーリングオフよぉぉぉ!」


腕を振り切って投げつける。


「どっはぁぁぁ?!」


大爆発。機体が尻もちをつく。その隙に機体に馬乗りになる。


「どぉらぁぁぁ!そこから叩き出してやるわぁぁぁ!」


コックピットを殴る殴る。機体が揺れる。


「うわっ、うわぁぁぁ!フレア、フレアァァァ!」


金属粉がばら撒かれ、着火。火花が爆ぜる。


「げふっ?!目がぁぁぁ!」


ひるんだ百尼を引っ剥がす。


「ちくしょうちくしょう、ちくしょぉぉぉ!」


肩の砲塔のダイナモが起動し、電磁エネルギーが満ちる。


「人に使ったことないけど……やってやる、ぶっ殺してやるぅぅぅ!」


エネルギーの圧で空気が揺れる。百尼に冷や汗が流れる。


「やっばい……けど、避けたらギャラリーが……」


射線上、遠くにはまだ人がいた。


「いっけぇぇぇ!超電磁砲レールガン!」

「チィッ!」


刹那、百尼の体が消えた。音を超越した弾丸の前に人体はなすすべもなかった。百尼のサングラスが舞う。張り裂けるような轟音が響く。地面が大きく抉れ、クレーターができた。


「百さん?!」


千尋の声は届かない。


「はぁ、はぁ……お、お前が悪いんだぞ!僕の邪魔をするから!これは、『ビスマルク』は神がくれたプレゼントだ!僕は好きに生きる!欲しいもの全部手に入れて、気に入らないもの全部ぶっ壊して……この世界に復讐するんだぁぁぁ!」


灰と化した辺り一面にコックピットからの叫びが染み渡る。


「……もう、傲慢ねぇ。」


誰かの声がした。


「あぁ?!」

「このアタシでもなかなかそんな生き方できないわよぉ……身のほどを知りなさぁい……」


声の主はズルズルとほふく前進していた。下半身が無く、立つことができない。


超電磁砲レールガンが当たって生きてる……なんで……?ありえない……」

「ありえないのがアタシなのよぉ。分かるぅ?」


下半身の再生が始まっていた。


「……知るかぁぁぁ!」


再度誘導ミサイルを射出。寝転ぶ百尼まっしぐら。


「ふんぬぅぅぅ!」


赤黒い紐が右脚に集中し、一瞬で形作る。


「ぬぁぁぁ!ビリビリに耐性ついてて良かったぁ!」


どうにか右脚一本、ケンケンでミサイルをかわす。


「ちょこまかとうっとうしい!直接やってやる!」


機体は右の拳を握りしめ、ドスドス近づいてくる。


「あらぁ素手格闘ステゴロは望むところよぉ。」


その間に左脚も再生を終え、両足を踏みしめる。


「ごぁぁぁ!」


機体が渾身の右ストレートを繰り出す。


「ハァァァ!」


百尼も右の拳を繰り出す。

衝突。衝撃波で地面に亀裂が走る。


「潰れちまぇぇぇ!」

「ぐっ、うぐぅ………」


百尼の拳が砕け、腕が折れる。


「……まだまだまだまだぁぁぁ!」


折れた腕が、拳が、壊れたそばから再生していく。百尼が押し返す。


「んなぁっ?!」

「ぁぁぁあああっはあああ!」


百尼が拳を振り抜く。機体のアームが砕け散った。


「うぉぉぉ?!」

「よっしゃぁぁぁ!」


勢いそのままに機体を駆け上がる。肩の砲塔に抱きつき、


「おイタするビリビリちゃんはコイツねぇ……ふんぬぅぅぅ!」


引っこ抜こうとする。音を立てて土台が外れかかる。


「やめろ、やめろぉぉぉ!フレアァァァ!」


火花が爆ぜる。しかし百尼は止まらない。


「おぁぁぁ!」


バガンと音を立てて砲塔が抜ける。


「うぁぁぁ!『ビスマルク』ゥゥゥ!頑張れぇぇぇ!」


機体の左アームからソードが飛び出す。


「うがぁぁぁ!」


ブンブン振り回す。百尼はいったん距離を取る。


「子どもが刃物持っちゃあ危なっかしいわねぇ、全くぅ。」


外れた砲塔を抱え、殴りかかる。


「うらぁぁぁ!」

「んなぁぁぁ!」


砲塔をソードで受け止める。鍔迫り合いが続く。だんだん砲塔が削れて短くなる。


「あぁもうダメね、コレ!」


砲塔をポイ捨てする百尼。機体は百尼の真上、大きくソードを振りかぶる。


「しゃらぁぁぁ!」

「おぉっとぉ。」


ソードは百尼の顔をかすめて空を切り、地面を割る。


「CHU♡」


百尼はソードに口づけしてから、左アームの肘裏目がけて蹴りを入れる。


「うっりゃぁぁぁ!」


関節と逆方向に力が加わり、アームがミシミシと音を立てる。


「だっせぇぇぇい!」


そのまま振り上げた。左アーム粉砕。


「な……嘘……?」

「さぁさ、腕ちょんばしちゃったしぃ、クライマックスよぉ。」


棒立ちする機体の足をひっかけ、大外刈りで仰向けに転ばせる。


「げぇっ?!」


無防備になったコックピットに百尼が立ちはだかる。


「引きこもりはおしまいよぉ。」


グッと両の拳を握りしめ、ドカドカ殴りまくる。


「やめてぇぇぇ!『ビスマルク』ゥゥゥ!何とかしてぇぇぇ!」


あらゆるところがパカパカ開いて機械音が鳴るが、何も出てこない。


「あき!らめ!なさぁい!大人に!なる!のよぉ!」


コックピットにヒビが入る。一際大きく振りかぶり力を溜める。


「嫌だぁぁぁ!」

「うっりゃぁぁぁ!」


拳がコックピットを貫通し、操縦者に届いた。


「ぶぇぇぇっ?!」

「でっりゃぁぁぁ!」


拳ごと体当たり。コックピットが弾け飛ぶ。そして機体が爆発。黒煙に包まれる。全ての武装を失い主もいないくなった機体は、ただ黒く焼け焦げていった。


「そんな……僕の最強の味方が……」

「どこが最強なのよぉ。アタシに負けるくらいなのよ、大したことないじゃなぁい。」

「う、うるさい!僕の全てだったんだ、アレが無いと、僕は……」

「また作ればいいじゃなぁい。」

「え?」


百尼を見上げる。


「そんなに好きなら何度でも作ればいいじゃなぁい。ま、その度にアタシが壊してあげちゃるけどねぇ。」

「な、何を……」

「世界をモノにしたいならそのくらいしてみなさぁい。それまでは反省、ねぇ。」


ポカンと頭に一発。気絶した。


「あ~あ、つっかれたぁ。グラサンも壊れちゃったしぃ、千尋に用意してもらわないと……あの店長いくら払ってくれるのかしらねぇ。」


のんびり歩いて事務所に帰った。


後日、事務所。


「五百万?安くなぁい?」

「まぁまぁこんなものですよ。百さんあのロボット壊しちゃって、中の宝石もダメにしちゃったじゃないですか。」

「そ〜れは不可抗力でしょ〜。アタシのせいにしてくれちゃってもねぇ〜。」

「とにかく今回もお疲れ様でした。サングラスはまた用意しておきますね。」

「お願いねぇ……それにしても最近異能が多いわねぇ。強いヤツは強いし。世の中が心配だわぁ。」

「ですね。いつか誰もが安心して暮らせる未来が来るんですかね?」

「来るかもしれないしぃ、来ないかもしれない。アタシは来ないと思うけどぉ。」

「そんな夢も無いこと言わないでくださいって。」


今後を案じる一日だった。

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