第22話

青島たちは、裏カジノの異常な雰囲気に包まれながら、慎重に周囲を見渡した。賭博のテーブルに座る顔ぶれは、明らかに一筋縄ではいかない人物ばかりだ。だが、青島はその中に紛れ込んでいるわけにはいかない。どこかに、この場所の真の目的が隠されていると感じていた。


「何かが変だな。」スネークが静かに言った。彼の鋭い直感が、この場所の不穏さを察知していた。青島はその言葉に同意し、さらに調査を続けることにした。


そのとき、突然、賭博テーブルの一角でざわめきが広がった。数人の客が立ち上がり、顔色を変えたようだ。青島は反射的にその方向を向くと、すぐに状況が把握できた。テーブルの周辺にいた客の一人が、突然倒れ込んだのだ。


「どうした?」和久が声を上げて走り寄った。


その男性は顔面蒼白で、激しく吐き気を催している様子だった。まるで体中の力が抜けたかのように、まったく反応しない。しかし、青島の経験則から言えば、これはただの食事不良や酔いが原因ではない。何か、もっと深刻な問題が隠れている。


「ノロウイルス…?」青島はふと考えた。流行の兆しがあったのか、それとも――


「大丈夫か?」和久がその男に駆け寄り、腕を掴んで揺さぶる。だが、その男の体は震えていて、目は虚ろだった。青島はその様子を見て、さらに警戒を強める。


「違うな。」青島がその男を見つめながら呟いた。「これは、ノロウイルスとは違う。もっと人工的に仕込まれたウイルスだ。」


「何だって?」和久が驚いた様子で青島を見た。


青島はすぐに周囲の賭博客たちに目を向け、気配を感じ取る。賭けが行われているテーブルから立ち上がり、少し離れた場所で何人かの客が手を洗っている姿が見えた。だが、違和感を感じるのはその動作だ。手を洗うという行動自体は異常ではない。しかし、洗剤が強すぎるのか、手を洗い終えた後に、その客が何か吐き気をもよおしているように見えた。


青島はひとり、冷静にその状況を見守っていた。その時、ふと背後から声をかけられた。


「そいつら、見てみろ。」スネークが、黙っていたが、青島の目線を追って何かを察知した。「彼ら、ただの客じゃない。多分、試薬を使っている。」


青島はすぐに振り返り、スネークが指差す方向に目を凝らした。そこには、賭博場を支配するような姿勢で立ち回っている一団がいた。そのうちの一人が、急に顔をしかめ、目を細めた。


「確かに、何かおかしい。」青島は直感的にその人物を追い、進むべき方向を決めた。


スネークは、冷静に他のメンバーと共に動き出す。「さっさと動け。裏カジノで起きていることをもっと調べる必要がある。あの男が倒れた理由も、必ずつかまなければならない。」


青島と和久、そしてスネークは、それぞれの役割を果たしながら、裏カジノ内を探索し始めた。賭博のゲームが進行する中で、いくつかの個室に入っていくと、そこに怪しい人物たちが何かの話をしているのを発見する。その会話の内容を少しでも耳にした青島は、その人物たちが、ノロウイルスではなく、異常な生物兵器を使用している可能性を感じ取った。


「まさか、この裏カジノで…」青島は信じられない思いで呟いた。「それは、ただのギャンブルではない。人体実験だ。」


その一団は、どうやらこの裏カジノを資金源にして、人体実験を行っている組織の一部だった。彼らは、ある種のウイルスを使って人間の耐性や免疫を試し、さらにそのウイルスを進化させて、制御可能な兵器にすることを目指していた。そのウイルスは、一般的に流行するノロウイルスとは異なり、人工的に改良されたものだった。


「これ以上は危険だ。」スネークが声を潜めて言った。「青島、どうする?」


青島は深く息を吸い込み、決断を下した。「警察を呼べ。この裏カジノが目指しているのは、ただの犯罪じゃない。これ以上放置すれば、大きな危機を招く。」


その瞬間、再び賭博場の一角で激しい騒ぎが起きた。何人かの客が倒れ込み、暴れ始めた。その状況が悪化すれば、青島たちの身にも危険が及ぶだろう。急いで警察に連絡し、さらに現場での証拠を集める作業が始まった。


だが、この裏カジノで進行している事件は、青島たちが予想していた以上に恐ろしいものだった。ノロウイルスではなく、もっと深刻で危険なウイルスが、その背後に潜んでいた。青島は、今まで以上に急がなければならないと感じていた。


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