第10話

青島が和久平八郎との会話を終え、心の中で少しずつ新たな決意を固めていたその時、突然、オフィスの電話が鳴り響いた。青島は驚きの表情を浮かべながら、すぐに受話器を取った。


「青島だ。」と、青島が簡潔に名乗ると、相手の声が焦りを帯びた口調で返ってきた。


「青島さん、すぐに来てください! 食品工場で爆発が起きました! 状況が非常に悪化していて、被害者も出ている可能性があります!」


青島は一瞬、電話越しの言葉を理解するのに時間がかかったが、すぐに警察の緊急対応モードに切り替わった。心臓が一瞬跳ね上がり、冷静さを保とうとする自分がいた。


「爆発…! 場所は?」と青島は急いで尋ねた。


「○○食品工場、今すぐ向かってください! 消防隊と医療チームも出動していますが、現場はまだ不明な点が多いです。詳細は現地で確認してくれ。」相手の声は焦燥感を隠しきれずに続いた。


青島は受話器を置くと、すぐにオフィスを飛び出す準備を始めた。頭の中では、和久や朝倉、井之頭の言葉が一瞬過ぎるが、それに気を取られる時間はない。今は目の前の事件に集中しなければならない。


急いでオフィスを出た青島は、パートナーの刑事に連絡を取りながら、車を急発進させた。食品工場がある地区は市内でも人通りが多く、渋滞していることもあり、現場に到着するまでの時間がもどかしく感じられた。


やがて、現場に到着すると、周囲には消防車や救急車がひしめき、警察の規制線が張られていた。煙がまだ立ち込めており、工場の一部が崩れ落ち、焼けた跡が生々しく残っていた。爆発によって破壊された工場の周囲には、ガラス片や鉄片が散乱し、焦げた匂いが立ち込めていた。


青島は車を降り、即座に現場に駆け寄りながら、状況を確認しようとした。捜査員が忙しく動き回っているが、まだ詳しい情報が入ってこない。


「青島だ。」と名乗りながら、自分が到着したことを伝えた。すぐに一人の捜査員が駆け寄り、緊迫した様子で報告を始めた。


「青島さん、現場はひどい状況です。工場内の一部が爆破され、少なくとも数人の従業員が巻き込まれている可能性があります。今は救助活動と並行して、犯人の特定を急いでいますが、爆発の原因はまだ不明です。」捜査員の顔は青ざめており、何とか冷静を保とうとしている様子だった。


「爆発の原因は特定できていないんですね…?」青島は冷静に確認した。


「はい、まだ。爆発物が使われた可能性もありますが、詳しい情報はまだ手に入っていません。警備員が目撃した話では、何者かが工場内に侵入し、爆薬を仕掛けたようです。」捜査員は報告を続けた。


青島は一瞬、深く息をつき、思案した。これはただの事故ではなく、意図的な犯行の可能性が高い。犯人は恐らく、何かを隠しているか、証拠を消すために爆破を仕掛けたのだろう。


その時、青島の視線は、煙の中から現れた一人の人物に引き寄せられた。黒いスーツを着た男が、警察の規制線を越えて歩いてくる。その顔は、青島にとって見覚えがあった。


「和久…?」青島は驚きながらその人物を認識した。


和久平八郎だった。金属バットを肩にかけ、どこかのんびりとした歩き方で現場に現れた彼は、まるで自分のペースで歩いているかのように見えた。しかし、その姿には一瞬のうろたえもなく、どこか冷静さと迫力が漂っていた。


「おい、青島。」和久は青島に気づき、軽く手を振りながら近づいてきた。「この現場は、ちょっと俺も関わることになりそうだ。さっきからこの爆発、なんだかちょっとおかしいと思わねえか?」


青島は一瞬、和久が現場に来た理由を疑問に思ったが、その目に何かを感じ取った。「お前、まさか…」


和久はにやりと笑い、「なんだ、俺を疑ってんのか? いや、今回は俺もこの工場の周辺でちょっとした事情を知っているんだよ。だから、爆発に関して少し調べてみたいと思ってな。」


青島は和久の不穏な笑顔を見て、思わず息を呑んだ。しかし、今は和久がこの状況にどう関わっているのか、まだ確信が持てない。ただ、何かが起きている予感がした。


「調べる…ですか?」青島は静かに問い返しながら、和久の行動を見守った。


和久は金属バットを軽く振りながら、青島に向かって微笑んだ。「そうだ。爆発がどうして起きたのか、そして背後にいるやつが誰か、俺が引き受けるぜ。」


青島は和久の言葉に不安を覚えつつも、今は彼の協力を得るしかないという気持ちになった。事態は急速に悪化しており、次の一手を考えなければならない。


「わかりました、頼みます。」青島は和久に目を合わせて、そう答えた。


その時、何か不穏な気配が現場を包み込んだ。誰かが動き出すその瞬間を、青島は感じ取った。


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