第160話 前に進むために

「会いたいです。もう一度会ってしっかり話がしたいです。中途半端でも一方的でもなくてしっかりと」


「そうか……」


「なんで!? あの人が私たちに何をしたのか忘れたわけじゃないでしょ? まさか、本当に未練があるとでもいうの? 私と付き合ってるのに、婚約してるのに!」


 永遠はやはり俺があいつに会おうとすることをよく思ってはいないようだ。そりゃあ、俺が永遠の立場だったらそう言うのかもしれない。

 勿論恋愛的な意味で未練があるなんてことは誓ってない。でも、あいつは俺にとって大切な幼馴染で昔の俺を支えてくれた奴だ。

 酷いことをされても今がどれだけ嫌な奴でも過去は変えられない。

 過去、俺が瑠奈に救われたという事実は変わらないんだ。


「永遠、未練は恋愛的なものではないよ。それはわかってあげて欲しい。彼は彼女に過去救われてるんだよ。それはきっとかけがえのない思い出であり空君が優しく生きていけている理由だろうからね」


「それでも、私は反対よ。確かにお父様の言う通り空の成長に繋がるかもしれないけど逆もあり得るでしょ! 空の心に傷が残る可能性のある行為を私は看過できません!」


 永遠の心配はすごくうれしい。それでも俺は瑠奈から眼をそむけたまま幸せになることはできないと思う。俺が本当の意味で幸せを享受するためにはしっかりあいつと向き合って乗り越えないといけない。そうじゃないと永遠と幸せな未来を謳歌できない気がしてならない。


「ごめん永遠。会いに行かせてくれ。もちろん永遠がついてきてくれてもいいし永遠が出す条件をできる限り飲む。それでどうかな」


「………じゃあ私もついていく。それが条件」


「ありがとう」


 永遠には心配をかけてばかりだけど俺はどうしても話し合わないといけない。


「話はまとまったみたいだね。心配しなくても私も同行するし私のガードも二人護衛につける。万が一を起こさないようにするから永遠も納得してやってくれ」


「…………はい」


 凄く不服そうにしながらも永遠はうなずいてくれた。永遠にはいつも迷惑をかけている。本当に申し訳ない。


「じゃあ、明日向かおう。それ以降は流石に年末ということもあって面会はできそうにないからね。二人ともそれで良いかな?」


「構いません」


「私もです」


 こうして俺と永遠は明日久遠さんとともに瑠奈のいる精神病院へと向かうことになった。

 あいつと別れて約一年が経った。今のあいつの状態がどんなものかもわからない。

 だけど、もう一度会って話して決別したい。

 そうでなきゃ俺が前に進めない気がするから。


 ◇


「今から私の車で向かうけどそれなりに時間はかかるからゆっくりしててくれ」


「ありがとうございます」


「ありがとうお父様」


 翌日俺たちは久遠さんに乗せられて家を出た。

 ここから瑠奈のいる精神病院まではそれなりに距離があるからかなり早い時間帯だ。


「永遠の機嫌はまだ治っていないみたいだね」


 久遠さんは車を運転しながらおどけたようにそう言った。昨日の一件から永遠の機嫌はなかなかに悪かった。それはもう美空や七海じゃなくても気がつくほどに。


「お父様は黙っててください!」


「おっと怒られてしまったね。じゃあ黙るとするかな。娘の相手は任せたよ空君」


「……はい」


 そう振られても永遠は今俺に対して怒っているのでどうすればいいのか分からない。


「ああ、黙る前にこれだけは言っておかないとね。空君、この件に関して君は悪く無い。優しい君のことだから自分に責任があると考えてしまうのかもしれないがそんなことは決して無い。それだけは覚えておいて欲しい」


「ありがとうございます」


 きっと久遠さんにはきっと俺の考えなんて全部お見通しなんだろう。

 俺が何を考えているのかくらいこの人にとって読むことは容易という事か。


「どういうことなのよ。二人でわかってるみたいになってるけど」


「空君説明は君自身がしてくれ。私は大体予想はしているけどすべてがあっているかはわからないからね」


 それだけ言い残して久遠さんは運転に集中する。

 どうやらこれから先は俺自身が話せという事らしい。

 少し気が重くなりながらも俺は隣にいる永遠に向き直って姿勢を改めた。



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