第159話 成長のための提案

「わざわざすまないね。休日に二人を呼び出して。受験勉強も大変だろうに」


「いえ、それは大丈夫なんですが何かあったんですか? 僕と永遠だけ呼び出すってことは他の二人には聞かれたくない話ですか?」


「そういうわけじゃあないんだけどね。シンプルにこの話は空君と永遠だけにしないといけないと私が思ったからかな」


「お父様もったいぶらずに要件を教えてくださいよ。なんで私たち二人を呼んだのか」


「まあ、もったいぶってるわけじゃないけどね。わかった教えるよ」


 久遠さんは姿勢を正して真剣な顔で俺たちに向き直った。それに倣って俺たちも姿勢を正して久遠さんに向き直る。


「空君、君は堀井瑠奈に会う気はあるかい? いや、会う覚悟はあるかい?」


「…………なんでそんなことを聞くのですか?」


「そうですよ! お父様! どうして空を今更あの人となんか」


「簡単だよ。空君は成長しないといけない。君はまだ彼女のことを完全に忘れられてはいないだろう? そりゃあそうだ。君にとっては最初の恋で最愛の相手であった子だ。あんな仕打ちを受けても君は心の奥底では絶対に彼女のことを憎みきれていない。心根の優しい君は最後の最後で彼女に決別できてはいないのだよ。自覚が無かったかい?」


「…………」


 久遠さんの言わんとすることはわかる。そんなに自覚があるわけじゃないけど。

 確かにあんなことをされても俺は瑠奈を恨みきれてはいないような気がする。

 あいつは俺や永遠に酷いことをした。それは俺がこの身をもって経験している。でも、どうしても俺はあいつを嫌いになり切れなかった。


「なんでお父様がそんなことを知ってるの!? それになんで瑠奈さんと話すことが空の成長になるの!?」


「なるさ。だって人間は過去と向き合い振り切って成長する。誰しもが同じというわけではないが成長の一歩であることに違いはない。それに空君だったら一度話したほうがいいと思うしね。中途半端な離別ではなく君自身が納得して別れないといけない」


「でも! 空をあの人に会わせるなんて危険すぎるわ! 次会ったら何されるかわからない! わざわざそんな危険な目に遭う危険性を冒してまで会う必要なんてないじゃない!」


 確かに危険なのかもしれない。それでも俺は久遠さんの言うようにあいつと向き合わなければならないのだと思う。そうしないといけない。そんな気がする。

 いつまでたっても前に進めないのは良くないから。


「会えるんですか?」


「一応ね。面会は可能だよ。だからここからは君の意思次第になる。もちろん私は君に会えと強要することは無い。君が望むなら機会を用意するというだけだ。だから君はどうしたい」


 どうしたいか。向き合うべきか忘れて生きるか。

 きっと前者を選べば俺は辛い思いをしてしまうし後悔もしてしまうかもしれない。

 でも、後者を選べば俺は本当の意味では幸せになれないような気がする。

 だから、だから俺は……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る