第34話 空の心と美空の心
「美空」
「お兄前に会いたくないって言ってたじゃん!それなのに何で行こうとしてるの?」
「それは、」
確かに俺は少し前に美空に言った。
あの両親には会いたくないと。
それはそうだ。
あの人たちは俺や美空よりも世間体を大切にしていた。
他にも俺のことを全く信用しなかったことや美空がいなくなって何ら行動していないのも気にかかる。
俺が傷つくくらいならいい。
でも、美空や天音さんに危害が及ぶことだけは避けたい。
「それはなに?お兄は昔からいつも肝心なことを隠そうとするよね。それはお兄なりの考えがあるのかもしれないけど隠されてる側は不安なんだよ?そろそろわかってよ」
「それはそうね。私も短い付き合いだけど空が肝心なところを隠しているのはよくあるものね」
「天音さんまで、」
2人に詰め寄られて俺は焦っていた。
確かに昔から肝心なところをぼかしたりはしていたけどまさか美空に全部バレてるなんて思ってもいなかったし短い付き合いの天音さんにもバレているなんて思わなかった。
「まあ、いったん兄妹二人で話し合いなさい。ご両親と会うかどうかを決めるのはその後からでもいいでしょう?」
「それはそうだけど、」
「安心しなさい。後藤さんは優秀な人よ。どれだけしつこく迫ってきても軽く流すくらい容易よ」
「そういう事なら時間もらってもいいですか?少しお兄と話したいので」
「もちろんよ」
どうやら俺が反論をする余地はないらしく話はどんどん進んでいく。
「じゃあ、お兄いったん私の部屋に移動しようか」
「わかった」
「じゃあ、しっかり話し合ってきなさい。空も逃げちゃだめよ?」
「わかりました」
そうして俺は美空に引きずられるようにして部屋に連れて行かれた。
◇
「それで?なんでお兄が話を聞きに行こうと思ったのか聞かせてよね。もしごまかしたりはぐらかそうとしたら許さないから」
「わかった」
今まで感じたことのないくらいに美空は怒っているらしくかなりの気迫で問い詰めてきた。
これは、正直に話さないとまずそうだな。
そう判断して俺は正直に美空に話すことにした。
「俺は後藤さんにあまり迷惑をかけたくない。そういったけど本質的に言えばそれは本当のことじゃない。もちろん思ってはいるんだけど最優先じゃないんだ」
「どういうこと?」
「俺は天音さんや美空に危害が及ぶことだけは避けないといけないと思ってる。あの両親は正直何をやらかすかわからない。だから美空や天音さんに何か危害を与えないかが怖いんだよ」
「だから、お兄が一人で話をつけようとしたってこと?」
「まあ、そういう事だな」
もっと言えば話をつけてもう二度と俺たちに近づけないようにしたいとも思ってた。
勿論口だけで聞くわけがないし法的処置をとるつもりではあったんだけどな。
「おかしいよ、そんなの。だってお母さんたちの件で一番傷ついてるのはお兄なのにそのお兄が全部を請け負おうとするなんておかしい!もっと私を頼ってよ。これでも私はお兄の唯一の妹なんだよ?」
「美空、」
美空は俺につかみかかりながら必死に訴えかけてきた。
頼りないから頼らないわけじゃない。
俺が美空を頼ることによって美空が傷つくのが怖い。
天音さんにあまり頼れない理由と同じだ。
「それにお兄が私たちに傷ついてほしくないと思うのと同じくらいに私もお兄に傷ついてほしくないの。だからそんなに一人で背負い込まないでよ。たまには私を頼ってよ」
美空は俺に掴みかかりながらそういってくる。
全くその通りだと思ったけど、やっぱり俺は俺のせいで誰かが傷つくのが怖くて仕方ない。
「ごめん美空」
「私が欲しいのは謝罪じゃないの!そんなのはいらないからしっかりとこれからどうするか話し合おう?お兄がお母さんたちと話すっていうなら私も一緒に行くし会いたくないっていうなら永遠姉さんと後藤さんに一緒にお願いしに行くからね」
美空は掴みかかっていた手を放して俺を諭す。
それがどうしようもなくうれしくて、同時にやっぱり気づつけたくないとも思った。
「本当にいいのか?」
「もちろんいいに決まってるじゃない!たまには頼ってよね」
「じゃあ、頼らさせてもらうことにするよ」
きっとこのまま頼らないほうが美空を傷つけるような気がする。
だから俺は今回は素直に頼ることにした。
でも、絶対に美空に危害が及ばないように手を回そうと思った。
◇
「なるほど。わかったわ。後藤さんには私からそう言っておくわね」
「ありがとう。迷惑をかけてごめん」
「良いのよ。こうやって頼ってくれた方が私も嬉しいから」
美空と一緒に俺は天音さんに事情を説明しに行っていた。
最初は何か小言を言われたりするかとも思ったけど天音さんは何も言うことなく快諾してくれた。
「私からも本当にありがとうございます!」
「いいのよ。それに私も空がご両親と会うのは反対だもの。今回の件は空が被害者なの。そんな空を加害者であるご両親に会わせたくはなかったもの」
どうやら天音さんにも心配をかけていたらしい。
やっぱり気遣われてるなと思うと嬉しくもあり申し訳なくもある。
「それじゃあ、私は後藤さんに話してくるから。あなたたちは安心して待っていなさい」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
天音さんの頼もしい言葉を聞いて俺たちは安堵したのだった。
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