第20話 復讐開始
「お兄月曜日なのになんか機嫌いいんだね」
「そうかな?自分では普通だと思うんだけど」
「いえ、私から見ても今日のあなたは機嫌がいいように見えるわ。何かいいことがあったのかしら?」
そこまでわかりやすいのか俺は。
まあ、仕方ないかもしれない。
今日復讐がすべて終わるわけではないけど今俺が置かれている状況は完全に変わる。
「う~ん朝から楽しい夢を見たからかな?なんだかすごく気分がいいんだ」
「なにそれ。変なお兄」
「いいじゃない。意外と子供っぽくてかわいげがあって」
ともかく。今日の朝も多分悟は絡んでくる。
その時があいつを地獄に叩き落とす第一歩だ。
勿論それで終わらせるつもりはないけどな。
「おっと、もうこんな時間ね。空そろそろ行きましょうか」
「うん。美空も遅れないように学校に行けよ」
「わかってるよ。行ってらっしゃい二人とも」
「「行ってきます」」
◇
「毎回いってるけどまたお昼にね」
「うん。いつもみたいに迎えに行くよ」
「待ってるわ。それじゃあ」
「それじゃあね」
天音さんはそう言い残して自身の教室に入って行った。
こうして彼女の背中を見送るのも日課になりつつあるな~
「よお性犯罪者。毎日毎日ご苦労なこったな」
「性犯罪者か、薄汚い嘘つきには言われたくないな」
「嘘つき??一体何のことだよ。まだ証拠もなしに言い逃れしようとしてんのか?」
「証拠ならここにあるさ。ほら、お前らも見てみろよ」
そう言って俺は教室にあったプロジェクターにスマホをつなげて例の動画を流す。
そこには俺と悟、瑠奈が映っており何かを言い合いしているところから始まっていた。
「なっ!?」
横を見てみれば顔を真っ青にした悟がプロジェクターの画面をみて固まっていた。
無理もないだろうな。
あれだけ自分が正しいみたいな顔してクラスの連中を先導してきたのにそれが全部嘘だって露見したんだからな。
「なんで、こんな動画があるのよ!!」
ヒステリック気味に瑠奈が叫んでいた。
動画には悟と瑠奈がホテルに入るまでの一部始終が撮影されており俺の両親にうその報告をするという計画すらも録画されていた。
かなり高性能のカメラを使ったのかしっかりと音声も入っているからこれを見て俺を性犯罪者呼ばわりできる人間はいないだろう。
「おいおい、そんなに顔を真っ青にしてどうしたんだ?保健室にでも行くか?二人とも???」
『え?どういう事?』
『じゃあ、柳くんは本当は何もしてないってこと?』
『藤田最低じゃん』
動画を見たクラスの連中は今まで俺のことを糾弾していた事なんて忘れてすぐに悟と瑠奈を糾弾し始めた。
全く学んでいないらしい。
まあ、その方が俺にとっては都合がいいんだけどな。
「どう言うつもりだ、空」
「どう言うつもりも何もお前達に復讐しただけだよ。2人が普通に付き合って俺に報告してくれたなら悲しいけど受け入れられた。祝福することだってできたのにお前らは俺から全てを奪っていった。その仕返しだよ」
失ったものは大きい。
家族、友人、恋人、親友、居場所。
あまりにも大きすぎるものだ。
「仕返しだと、」
「酷いよ空。私たち幼馴染でしょ?」
瑠奈が顔を青くしながら縋りついてくる。
気持ちが悪くて仕方がない。
「こう言う時だけ幼馴染ぶるなよ。浮気した挙句嘘の情報を流して俺を陥れたやつが今更幼馴染ぶるな。反吐が出る」
一体どこまで面の皮が分厚いんだろうか。
自分で落とし入れておきながら自分が窮地に陥ると幼馴染ぶって助けを求めようとする。
厚顔無恥にも程がある。
「空、そんな」
「待てよ!俺は瑠奈に言い寄られただけだ!!悪いのはこの女だ!俺じゃねぇ」
「悟、くん?」
マジか悟のやつ思いっきり裏切りやがった。
瑠奈は泣きそうな顔してるしカオスだなこりゃ。
「悟くんが浮気でもいいから付き合おうって言ったんじゃん!!」
「捏造すんなよ。俺はそんなこと知らねぇ!」
「そこらへんにしとけよ。どっちみちお前ら終わりなんだからさ。この後校長室にでもいって詳しく話し合えばいいだろ?」
「は?」
「え?」
俺がそう言った瞬間には教頭が走って教室に入ってきた。
仕込みが上手くいったらしい。
「藤田悟!今すぐ職員室に来なさい!というか、なんでこんなに騒がしいんだ?」
「教頭先生。少し相談したいことがあるんですけどいいですか?」
「今はそんな場合じゃあ、」
「このクラスで起きていたことを詳細に報告したいので」
もちろんこんなのは方便だ。
俺が本当に話したいのは校長だし教頭に興味はない。
だが、教頭がここに来たってことは俺の作戦は成功しているらしい。
「わかった。藤田もついて来なさい」
教頭はそう言って俺たちを先導し始めた。
◇
「それで、クラスで何が起こったんだ?」
教頭と校長と生徒指導主事に囲まれて俺は話を聞かれていた。
悟は別室で待機している。
「まず、俺はここ一週間ほどイジメを受けていました」
「なっ!?」
先生方は動揺を隠せないようで目をぱちぱちとさせていた。
無理もないだろう。
多分だが、俺が担任に相談した内容は上に伝わっていないのだから。
「それは、本当なのか?」
「本当ですよ。担任の佐藤先生にも相談したんですけど知らなかったんですか?」
「ああ。そのような話は聞いていない」
「信じられないようなら録音データもあります。お聞きになりますか?」
俺は胸ポケットに入っていたボイスレコーダーを取り出しながら先生達を見つめる。
予想通り担任はあの話を上にしていなかったらしい。
「聞かせてもらえるか?」
「わかりました。どうぞ」
生徒指導主事が三人の教師を代表して俺に声をかける。
教頭と校長は唖然としていて固まっている。
無理もない。
自分の受け持つ学校でいじめがあったとなるとショックも受けるだろう。
それから俺は三人の先生が見守る中、佐藤先生に俺が虐めの件について相談している音声が流れた。
佐藤先生は俺の相談を話半分で聞いていて、とてもめんどくさそうにしているのが声音から伝わってくる。
「っ、、!」
どうやらこの音声を聞いて俺のことを信じてくれたらしく三人の先生は息を飲んでいた。
まあ、正直言うとここまでは俺の予想通りだった。
あの時佐藤先生に相談したのはこうして先生たちに俺の立場を簡単に信用してもらうためだったし、きっと佐藤先生はこの件では動かないという確信があって相談した。
「他にもクラスのみんなから酷い虐めを受けてて」
「そうだったのか。すまない。気が付けなくて」
校長は深々と頭を下げて俺に謝罪していた。
「いえ、校長先生が悪いわけではないですから。これを」
俺はもう一つ胸ポケットからボイスレコーダーとUSBメモリを取り出して先生たちに渡す。
「これ、この一週間に俺を虐めていた時の映像と音声が含まれてます。クラスのほとんどの人間が関わっていたので勝手ながら証拠を集めるために撮らせてもらいました」
「いや、自衛のためなんだ謝る必要はない。この件は私が責任をもって対応する。重ねて本当に申し訳なかった」
「謝らないでください。対応してくださるなら俺から言うことはありません」
そう。
俺に対して虐めをしてきた連中に対応してくれるのなら俺から言うことは無い。
なにより、先生たちは別の件でそれどころじゃないかもしれないけどな。
「ありがとう。じゃあ、柳のクラスはとりあえず今日は帰らせろ。複数の教員でこの中の記録を見て精査する。必要があれば停学や退学の処分も検討に入れるぞ」
「わかりました」
校長がそういうと教頭がうなずきテキパキと作業をはじめる。
「校長先生、俺は少し残っていても大丈夫ですか?」
「構わない。必要なら一日空き教室を使ってくれ」
「ありがとうございます」
こんな状況だからこそ天音さんとの契約を守らないといけない。
俺は彼女と一緒に登校して一緒に下校しないといけないんだから。
「じゃあ、柳。俺と一緒にクラスに戻るぞ。安心しろ。お前に危害は一切加えさせないから」
「ありがとうございます」
生徒指導主事の先生はにっこりと笑いながら俺を励ますように肩を叩いてくれた。
この後クラスに戻った俺と生徒指導主事の先生が今日は下校であることを伝えて解散になった。
この時の真っ青になったクラスの連中を見ていると幾分か気分が晴れた。
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