第19話 危うき空の準備完了
杉浦さんと連絡先を交換してから一週間が経った。
結論から言うと彼女からの要求が一切なくいまだにクリスマスのデータは手に入れられてない。
「お兄ちょっと話があります」
「どうかしたのか?」
土曜日、朝ごはんを天音さんの部屋で食べ終わった後に美空に呼び出される。
一体何の話だろうか?
最近は学校での証拠集めとかで忙しくてあんまり構ったなかったから怒っているのだろうか。
「お兄は最近学校で何やってるの?永遠姉さんが聞いてもはぐらかしてるらしいけど」
「なにをって言われても普通に過ごしてるだけだよ」
実際にはずっと虐めの証拠集めをしていたわけなんだけどな。
クラスの隅にカメラを仕掛けたりしてるから一部始終が録画されてるから周囲が俺に嫌がらせをすればするほどあいつらは地獄への階段を上っていく。
「そんなわけないでしょ?前には殴られたりしてたらしいじゃん。永遠姉さんに聞かれてもはぐらかしたらしいけど私ははぐらかされないよ。だからお兄が今学校で何をしてるのか、どんな状況にいるのか教えてよ。少なくとも私たちはお兄の味方だから」
美空は俺の手を握りながらそんなことを言ってくれる。
まったく本当にこの妹は。
いつも俺に優しくて、だからこそ俺はこいつを巻き込みたくない。
もちろん美空だけじゃない。
天音さんだって巻き込みたくはない。
だからできるだけ俺は自分がやっていることを伝えたくないしこの件に関してはあまりかかわってほしくなかった。
「、、、、、、」
「空、今回は私も引き下がる気はないわ。絶対に話してもらうまでは帰さないから」
「天音さんらしくないな。普段はそんなことをするタイプじゃなかったはずだろ?」
「そうかもしれないわね。でもしょうがないじゃない。私がそうしないといけないと感じるくらいには今のあなたは不安定に見える。いえ、不安定というよりは危うく見えるのよ。何かの目的を達成したら死んでもいいと思ってるみたいに見える」
本当に天音さんは鋭すぎる。
俺が隠そうとしていることをすべて彼女は見透かしたかのように言い当ててくる。
本当に不思議な人だ。
俺は彼女のことをあまり知らないのに彼女はなぜか俺のことを深く理解しているような気さえする。
「、、、そんなことないよ」
「じゃあ、なんで目をそらすのかしら?空は今何をしているの?」
追い詰められている。
このままいけば俺が隠そうとしてることは隠せそうにない。
隠す必要があるのかと聞かれればそうではないのかもしれない。
でも、こんな醜い自分を二人に知られたくない。
知られて嫌われたら俺は耐えられないから。
「お兄、なんでそんなにつらそうな顔をしてるの?そんなに言いにくいことなの?」
「、、、ごめん。やっぱり言えない。本当にごめん」
謝ることしかできない。
本当にこのことは言いたくなかった。
ここで話して二人に軽蔑されたら俺は復讐を達成することすらできなくなる気がするから。
「わかったわ。でも一つだけ約束して。あなたが今何をしようとしているのかは聞かない。でも、あなたのやるべきことが終わったら必ず私の下に帰ってきなさい。それが約束できるなら私はこれ以上追求しないわ。約束できる?」
「わかった。約束するよ」
きっと天音さんの最大限の優しさなんだろう。
なんでここまで俺に気を使ってくれるのかはいまだにわからなかった。
だけど今はそれを考えてる場合じゃない。
後はクリスマスの映像さえ手に入れば完全に俺の勝ちだ。
あいつらを地獄の底に叩き落とすことができる。
「約束は守って頂戴ね?」
「もちろん。天音さんのことを裏切るつもりは無いから」
◇
「先輩おはようございます!!」
「おはよう。それで日曜日の朝にわざわざ呼び出して来た理由を教えてもらってもいいかな?」
今まで何一つ連絡をよこさなかった杉浦さんがいきなり待ち合わせを要求してきた。
きっとクリスマスの件に関わることだと思うけど、なにぶんこの子の考えていることはなかなか読めない。
「デートしたいからに決まってるじゃないっすか。それじゃあ行きますよ?」
「わかったから引っ張るなよ」
いきなり手を引っ張ってどこかに連れて行かれる。
この子は何を考えているのか、目的が何なのか一切わからないから警戒してしまう。
きっとデートというのも嘘なのだろう。
「一つ質問いいっすか?」
「なんだ?」
「先輩と天音先輩はどういう関係なんですか?」
「どういう関係とは?」
「だから接点が気になるんすよ。柳先輩に悪い噂が立ち始めた翌日から一緒に登校するようになって帰りも一緒。それをここ最近毎日ときたらさすがに気にもなるっすよ」
どうやら後輩の間にも噂は広がっていたらしい。
まあ、天音さんの人気を考えたら仕方が無いのかもしれないけど。
「それに、お昼ご飯も一緒に食べてるときたらねえ?今まで天音先輩は男性とのかかわりなんて全くなかったのにいきなり悪評が広まっている男子生徒と一緒にいる。一体お二人はどういう関係なんですか?」
「それにこたえることがクリスマスの動画を渡す条件なのか?」
「そうとらえてもらっても構いません」
「なら動画はいらない。あれば完璧だったけど絶対に必要ってわけじゃないからね。天音さんのことを売るような真似までして手に入れたいとは思わない」
この子がなんでそんなことを聞いてくるのかはわからない。
天音さんに危害を加えるつもりなのか、それとも純粋に気になっているだけなのか。
どちらだとしても俺の目的のために天音さんのことを話す気は俺にはなかった。
「やっぱり先輩って面白いですね。自分のことじゃなくて他の人を優先できるんですから」
「そんなことは無い。俺は彼女に恩がある。それを裏切ることができないだけだ」
「それでもっすよ~普通の人間は自分のことが一番大切なはずなのに先輩は他人を優先した。そういう所を天音先輩は気に入ったんすかね?」
「さあ?それは俺にはわからないな」
結局この子は何がしなかったんだ?
天音さんのことを知りたかったのか全く別の意図があるのか。
表情は常ににっこりとしていて変化が無い。
何を考えているのか本当にわからないから恐怖を感じる。
「そんなに警戒しなくてもいいっすよ。私の目的はある程度達成されたんでデータあげますよ」
そういった次の瞬間スマホが震える。
画面を確認してみれば杉浦さんから動画ファイルが送られてきていた。
中身を見てみればあの時の俺たちのやり取りが一部始終取られていた。
「ありがとう」
「別にいいっすよ。でも一つだけお願いいいですか?」
一体なんだろう。
この子を相手にしてるとなんだか気が抜けない。
一体俺は何を要求されるんだ。
「私のことを名前で呼んでもらってもいいですか?」
「ん?」
名前で呼ぶ?
そんなことでいいのか?
てっきりもっとすごいことを要求されるのかと思ってたけど。
「意外ですか?」
「まあな。君はもっと複雑なことを要求してくると思ってたから」
「そうでもないっすよ。それで呼んでくれるんすか?」
「まあ、こんなものをもらっては君のお願いを無下にすることはできないな。ありがとう七海さん」
「っっ!!」
顔を真っ赤にして七海さんは俯いてしまう。
何だこの反応は???
「七海さん?」
「は、はい!それで大丈夫っす!今日の所はこれで失礼しますね!空先輩」
「あ、ちょっと、」
俺が呼び止めるより先に七海さんは走って帰ってしまった。
いや、足速いな。
「とりあえずこれで駒はそろった。あとはこれをどう使うかだな」
クリスマスの映像が手に入ったことにより俺の潔白が証明できる。
前に担任に虐めのことを相談したけど何の対応もされてないのを見ると隠蔽する気なんだろうな。
じゃあ、次は校長に話を通しに行こうか。
他にもあいつらを破滅させることができる駒はいっぱいある。
よくもまあこの一週間でここまでの証拠が集めれたもんだな。
我ながら驚きだった。
でも、これで辛く苦しい学校生活から解放されそうだ。
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