第36話: 地球滅亡へのタイムリミット

 アストリアは、決戦に備え、剣の修行に明け暮れていた。


 ゾグナスとの戦いに全てを懸けるため、彼は荒涼とした岩場で、黙々と剣を振るい続けていた。


「俺はもっと強くならなきゃならない…!」

 

 汗が額から滴り落ち、日差しが肌を焼く中でも、アストリアは手を止めなかった。


 その荒削りな剣捌きには力強さがあったが、どこか制御しきれていない一面も見え隠れしていた。


 そんな中、彼は渾身の力を込め、剣を振りかぶった。その瞬間──。


 スッ.....


「あ....。」


 手から剣が滑り落ちた。


 いや、ただ滑り落ちたのではない。


 想像を絶する勢いで剣は空高く放り投げられ、そのまま一直線に空を切り裂いて飛んでいった。


「お、おい、ちょ、待てよ!俺の剣!!」

 

 アストリアが慌てて叫んでも、その声は空しく響くだけだった。


 剣は見えなくなるほどの速度で上昇し、青空を突き抜け、大気圏を突破していった。


 その頃、宇宙空間では──。

 

 放たれた剣は無重力の中を勢いそのままに進み続け、最終的に月へと到達した。


 ズガァァンッ!

 

 月面に突き刺さった剣は、巨大な衝撃波を発生させ、その周囲には無数の亀裂が走った。


 月全体が震えたかと思うと、次の瞬間──。


 バキィィッ!

 

 月が真っ二つに割れ、地球の引力に引き寄せられるように落下を始めたのだ。


 「な、なんだと…?!」

 

 その様子を見たアストリアは、青ざめた。


「俺の…俺のせいだ…!!」

 

 地球が滅びるなどという想像もしていなかった彼は、後悔と恐怖に打ちのめされる。


 ──────────────────


 一方、ガルム帝国の城では....。


 ゾグナスもまた、月の崩壊の一部始終を目の当たりにしていた。


「あ?!人間どもが何をやらかした?」

 

 冷たい目で見上げながらも、その声にはわずかな苛立ちが混じっていた。


 やがて、月の破片が大気圏を突入し、世界各地に小隕石が降り注ぎ始める。


 事態は明らかに一国の問題を超えていた。


 ──────────────────


 アストリアはトイレに籠ったきり、出てこなかった。

 

 セラフィスとギルバートは、ひとまず"作戦会議"と称して部屋へと入ったきり、全く姿を見せない。


 一方、ローハンはというと....。


「おいローハン、また注文入ったぞ!」

 

 飲み屋の厨房から威勢の良い声が飛ぶ。

 

 ローハンは、エプロンをきっちりと締め直しながら、その声に応えた。


「了解! すぐ運ぶ!」

 

 手際よく皿を並べ、満席状態の店内を素早く駆け回る彼の姿は、まさに"できる男"そのものだった。


 バッシングも会計も全て率先して引き受けるローハンの働きぶりに、店長も舌を巻いていた。


「本当に助かるよ、ローハン。君がいなかったら、うちは回らないよ!」


 だがその言葉に、ローハンは爽やかな笑みを浮かべるだけだった。


「いやいや、大したことじゃありませんよ。こう見えて、危機的状況には慣れてますんで!」


 月が落ちてくる現実よりも、飲み屋の忙しさの方がずっと緊張感があるという彼の感覚は、もはや常人のそれを超えているのかもしれない....。


──────────────────


 トイレの中でアストリアは一人思った。


 このままでは、勇者の名が廃ると。


 その瞳は強い意志に満ちていた。


 アストリアは急ぎ決断を下した。


 ゾグナスに一時休戦を持ちかけるのだ。


「俺が…俺がやらかしたことだが、このままだとお前の帝国も滅ぶ。ここは一旦休戦しよう。月の落下を止めるために手を組むしかない!」


 アストリアの言葉を聞いたゾグナスは、


 一瞬冷酷な笑みを浮かべたが、すぐに険しい表情へと変わった。


「貴様の失態に付き合うことになるとはな…だが、地球が滅びれば俺の野望も終わりだ。仕方ない、応じてやる。」


 こうして、奇しくも宿敵同士が手を組む形となったのだった。


 地球の運命やいかに──?!


 続く。


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