第33話: 不屈の心

 冷たい夜風が吹き抜ける森の中、ギルバートはセラフィスを先導してアジトへの小道を進んでいた。


 周囲を注意深く見回す彼の目は、暗闇の中でも鋭く光っている。


 セラフィスは、その背中を追いながら無言で歩く。


「もう少しだ。ここを抜ければ、すぐだ。」

 

 ギルバートが小声で呟いたその瞬間、空から何かが降ってきた。


「──!」

 

 二人は反射的に身を引いた。


 ドサリと音を立てて、何かが地面に転がる。


「おい、大丈夫か!」

 

 ギルバートが駆け寄ると、それは人間だった。


 いや、正確にはローハンだった。


「なんだ、ローハンか……驚かせるなよ。」

 

 セラフィスは一息つきながら、倒れたローハンを見下ろす。


 だが、彼の顔には奇妙なものが張り付いていた。


「顔に何か……ビラか?」

 

 ギルバートが恐る恐るそれを剥がすと、現れたのは一枚の新聞だった。


 薄暗い月明かりに、その見出しがはっきりと浮かび上がる。


【号外! 指名手配犯:アストリア、捕まる!!!】


 セラフィスは、新聞に大きく載せられたアストリアの顔写真と名前を見て、深く息を吐いた。


「・・・あの、脳筋馬鹿。」


 彼の冷ややかな呟きに、ギルバートも苦笑いして肩をすくめる。


「どうせ、また目立つ行動でもしたんだろう。あの子らしいな。」


 ローハンは地面に座り込んだまま新聞を取り上げ、ぼんやりと眺めた後、口を開く。


「いや、俺も突然だよ。アストリアが『セラフィスを頼む』って言ってきて、そしたら気づいたらここに……って、この新聞、なんだよこれ!」


「そんなこと、こっちが聞きたい。」

 

 セラフィスは鋭く言い返しつつ、考え込むように視線を落とす。


「・・・まぁいい。まずはアジトに入る。外でこれ以上、目立つのは避けたい。」

 

 セラフィスの一言で、一行は再び動き出した。


 どこか不安げな空気を漂わせながらも、彼らの足音は小道の奥へと消えていった...。


 ──────────────────


 錆びた鉄扉がきしむ音とともに開いた。


 セラフィス、ローハン、ギルバートの三人が中に足を踏み入れると、薄暗い部屋の中には十人ほどの男女がいた。


 彼らは警戒しながらも、それぞれが武器を握りしめている。


「ようこそ、レジスタンスの拠点へ。」

 

 中年の男性が代表して口を開いた。


 彼の手には小さなガラスの容器が握られていた。


 その中には、淡く黄色に輝く光の粒が揺らめいている。


「それは…まさか"楽の魂”?」


 セラフィスが目を見開く。


「その通りだ。」


 男は頷き、


「これでお前達が持っている“喜の魂”と合わせて、二つ揃うことになる。」


 ローハンがセラフィスの肩を叩き、「やったな!」と笑みを浮かべる。


 だが、セラフィスの表情は浮かないままだった。


「魂が揃うのは確かに朗報だ。しかし、その分、敵がこちらを追うリスクが高まる、ということだ。」


 その時、その言葉を裏付けるかのように、突然地上から轟音が響き渡った。


「敵だ!!!」


 地上の見張り役が叫ぶ。


 全員が一斉に武器を構える。


 天井から土が崩れ落ちる音が響く中、アジトの入り口が破壊され、闇の中から重厚な鎧をまとった男が現れた。


 その後ろには数十人の兵士が控えている。


 その中心に立つのは、ガルム帝国の帝王、ゾグナスだった。


「“哀の魂”の力を見せてやろう。」

 

 ゾグナスの声は冷たく響き渡り、彼が指を鳴らすと、捕虜らしき人々が続々と現れた。


 その中には、アストリアとマチルダの姿もあった。


「なんだと…!」


 セラフィスが息を呑む。


 マチルダの手には、炎を纏った弓が握られていた。


 "怒の魂"の圧倒的な力が"哀の魂"の力と合わさり、さらに禍々しいオーラを放ちながらセラフィス達に矢を向ける。


「“負の感情の魂"は“正の感情の魂"よりも力が強い。そしてな…その力のおかげで、お前達の場所を突き止めることができたのさ。」


 ゾグナスが不敵な笑みを浮かべる。


「さあ、残りの魂も渡してもらおうか。」


「アストリア…!」


 ギルバートが彼に駆け寄ろうとするが、操られた捕虜達が行く手を阻む。


 しかし次の瞬間、操られているはずのアストリアが突然叫んだ。


「うるせえ!誰が従うか!!」


 驚愕するゾグナスとレジスタンス達を尻目に、アストリアは素早く動き、マチルダの炎の矢を剣で弾いた。


 その剣先には怒りにも似た力強い意志が宿っていた。


「精神力次第だ!俺は誰の操り人形にもならねえ!」


 アストリアはセラフィス達の前に立ちはだかり、ゾグナス、マチルダと対峙する。


 激闘が今、始まる....!!!

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