第19話: 異次元での激闘②
「終わった…。」
しかし、ルドルフを倒したものの、絵の中に閉じ込められたままのマチルダの姿は依然として動かず、ただ静かにその美しい顔が描かれている。
アストリアはその絵を見つめながら、何度も手を伸ばし、彼女を呼びかけるが、絵はただの絵のまま。
希望の光が見えないように感じた。
しかし、セラフィスは諦めなかった。
彼の力、スキャニング能力は次元を越え、物質世界を超えて魂と繋がることができる。
セラフィスはアストリアに憑依すると深く息を吸い込んだ。
「絶対終わらせたりなんかしない。」
セラフィスはそう静かに言うと、心の中で全てを賭けるように自分の魂を絞り出した。
その力が、彼の魂と共鳴し、絵の中で囚われているマチルダの魂へと波紋のように広がっていくのを感じた。
彼の魂が、マチルダの消えかけた魂と共鳴し始める。
彼女の魂は、セラフィスの魂に共鳴し、微かな光を放ち始める。
まるで二つの魂が絡み合い、互いに呼び合うような感覚だ。
絵の中で、マチルダの顔がわずかに変化し、その眼差しがほんの少しだけセラフィスを見つめた。
「マチルダ....。」
彼がその名を呼ぶと、絵の中で微かな動きがあった。
唇がゆっくりと動き、かすかに声が漏れ出す。
「セ…ラ…フィ…ス…」
その声はまるで遠くから聞こえてくるようだった。
微かな音、そして絵の中のマチルダの顔がわずかに歪んだかのように見えた。
「マチルダ、君の魂はまだここにある。君の力も、僕と共に。」
その瞬間、セラフィスは見た。
マチルダの魂が、絵の中で震えながらもその姿を変え、再び彼の目の前に現れる。
それはただの幻ではなく、まるで現実のように、確かな存在感を持っていた。
「セラフィス…私を…助けてくれて…」
マチルダの声がセラフィスの心を突き刺すように響いた。
セラフィスはその瞳を見つめながら、手を伸ばし、マチルダの魂に触れようとする。
「僕は君を決して諦めない。君がここにいる限り、必ず救ってみせる!」
セラフィスの言葉が、彼女の魂を強く引き寄せる。
その瞬間、絵の中のマチルダが一気に現実世界に引き寄せられ、セラフィスの手の中に引き寄せられた。
彼女の体が、透明な光に包まれて現れ、まるで長い間閉じ込められていた魂が解放されるように、絵の枠を超えて出てきた。
「セラフィス…私…」
マチルダはその場に倒れ込み、俯きながら喋る。
「私のせいで、みんなに迷惑をかけた....。」
その瞳には、自責の念がこもっていた。
「ローハンが危ないかもしれないと思ったら、気が動転して.....でも、それで余計にみんなを危険に晒したなんて.....本当にごめんなさい....!」
セラフィスの静かな声が響いた。
「マチルダ。君が冷静さを失ったのは責められるべきことじゃない。」
セラフィスの声は、厳しさの中に柔らかさを含んでいた。
マチルダが顔を上げると、アストリアの肩越しにセラフィスの青白い光が揺らめく。
「ローハンの命が危ない──そんな状況に陥れば、誰だって動揺する。君は彼を助けたい一心で動いただけだ。それは"普通の感情"だよ。」
セラフィスの穏やかな言葉に、マチルダの瞳が大きく揺れる。
「自分を見失うことは、弱さじゃない。それだけ君が仲間を想っている証拠だ。それを恥じる必要なんてない。」
その瞬間、マチルダの頬を一筋の涙が流れ落ちた。
「セラフィス…。」
彼女は目を伏せ、手の甲で涙を拭ったが、それでも止まらない。
セラフィスの言葉が、深い後悔と自己否定に満ちた彼女の心に、そっと温かな光を灯したのだ。
「ありがとう……そんな風に言ってもらえるなんて……私、少しだけ救われた気がする。」
マチルダの声は震えていたが、その表情には少しだけ安堵の色が見えた。
セラフィスは微笑むように言葉を続けた。
「なら、これからは冷静さを保つ努力をすればいい。それが君の強さになる。そして……僕達は仲間だ。一人で抱え込む必要はない......。」
その瞬間、セラフィスの憑依が解けた。
長時間の憑依は、セラフィスの精神、アストリアの身体に強い負担がかかる。
「ナイスファイトだったぜ...。マチルダ....。」
ニヤリと笑いながら、サムズアップをしてアストリアは言う。
それと同時に彼の額から汗が滴り落ち、足元がふらつく。
「アストリア....!」
マチルダは涙を拭きながら彼のもとに駆け寄り、肩を支える。
「"奇跡の涙"を見つけたわ。それは、奴がいつも付けてるペンダントだったの。」
アストリアが安心したように微笑む。
その時、"喜の魂"が二人の前に現れ、輝きを放つ。
「これが…"喜の魂"?」
「ああ、これで全てが元通りだ....。」
気がつくと、二人は鏡面世界から解放され、現実世界に戻っていた。
その後、二人が城の外に出ると、ネクロマンサーとその娘、リリィが彼らの帰りを待っていた。
村に戻ったアストリア達は急ぎ、ローハンが横たわる家へと駆け込んだ。
彼の呼吸は浅く、魂が今にも身体を離れそうなほど弱っている。
「ローハン!」
マチルダは彼の手を取り、震えながらポーチから取り出した「奇跡の涙」をそっと彼の胸にかざした。
その瞬間、涙は光の粒子となってローハンの身体を包み込む。
彼の肌に宿っていた呪いの黒い痣が薄れ、やがて完全に消え去った。
「マチルダ......?」
目を開けたローハンがかすれた声で呼びかけると、彼女は堪えきれずに彼を抱きしめた。
「よかった......本当によかった......!」
マチルダの涙が、彼の肩を濡らす。
その隣で、アストリアが腕を組みながら口を開いた。
「これでひとまずは一安心だな。」
絆を再確認し、彼らの旅は続く。
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