第13話: 呪われた館

 朝日が差し込む静かな山道。


 小川のせせらぎを聞きながら、アストリア、ローハン、そして新たに仲間に加わったマチルダは、歩みを進めていた。


 アストリアの後ろをマチルダが不機嫌そうについていく。


 彼女はアストリアとセラフィスの微妙な違いを意識していた。


 セラフィスは、危機的な状況下でしかアストリアに憑依出来ない。


 これが、彼の能力の制約でもあり、また一行の大きな難点でもあった。


 だが、それを無意識に一番気にしていたのは、マチルダだった。


(どうして、あんな弱そうなセラフィスに…)


 マチルダは彼のことを心の奥底で"かっこいい"と思っている自分を受容出来ずにいた。


 ##########################



 アストリア一行はある村に立ち寄った。

 疲れた足を休めるためだった。


 しかし、村の雰囲気はどこか重苦しく、住人達の表情もどこか浮かない。


 村長がアストリア達に話しかけてきた。


「すみません、旅の方々。もしよければ、少しお力を貸してもらえませんか?」


 アストリアは村長の顔を見つめながら答える。


「一体どうしました?」


 村長はため息をつき、しばらく言葉を探してから口を開いた。


「実は、近くの洋館があるのですが、数日前から、子どもたちがそこに遊びに行ったきり、帰って来ないのです。夜になると、洋館から悍ましい声が聞こえてきます。我々はその音を聞くと、恐怖でどうしても足がすくんでしまうのです。どうか、例の洋館を調べて下さい。」


 ローハンが眉をひそめて言った。


「夜になると悍ましい声が聞こえるだと…?」


 村長はうなずき、さらに続ける。


「夜になると何かが…、何か恐ろしいものが現れるようで…。昔から、この洋館は呪われていると言われています。」


 アストリアは村長に向かって言った。


「分かりました。今夜、調査に行ってみます。」


 村長は深く頭を下げた。


「ありがとうございます。お願い申し上げます。」


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 夜が訪れると、アストリア一行は村から少し離れた場所に立つ洋館へと向かった。


 月明かりの下、洋館は不気味に沈黙しており、窓の奥からは薄く赤い光が漏れている。


「これがその洋館か…。」


 ローハンが言いながら、斧を握りしめる。


「静かだな。何も起こらなければいいんだが。」


 アストリアは辺りを注意深く見渡し、セラフィスに確認する。


『セラフィス、異常はないか?』


『不安定だ。何者かは分からないが、強い魔力を感じる....。』


 アストリアは深く息を吸い込むと、足を踏み出した。


「行くぞ。しっかりとついてこい。」


 一行は洋館の扉を開けると、薄暗い室内に足を踏み入れた。


 すると、突然、足元から低い、うめき声が響いてきた。


「う…うう…」


 その声はどこからともなく響き、アストリアの耳元でかすかにささやく。


「こ、こっちだ…!」


 マチルダは驚きながらも、必死に周囲を見回す。


 彼女は弓をしっかりと握りしめた。


 アストリアはそれを察し、低い声で指示を出す。


「気をつけろ。すぐそこだ。」


 さらに歩みを進めると、薄暗い地下室への階段が現れる。


 下からは奇妙な音が響き、冷たい空気が流れてくる。


「行くぞ、行くしかない!」


 ローハンが先に進み、アストリアがその後に続いた。 


 マチルダも躊躇しながらも、意を決してその後ろに従う。


 地下室に降りると、そこには赤い光を放つ血の池が広がっており、その中央に立つ影が見えた。


「…あれが、魔物の正体か。」


 闇の中から現れたのは、黒いマントに身を包んだドラキュラだった。


 その目は赤く輝き、不気味なオーラを放っている。


 ドラキュラの攻撃が始まった。


 彼は蝙蝠の群れを召喚し、毒々しい霧で一行を覆う。


 ローハンが蝙蝠を斧で薙ぎ払いながら叫ぶ。


「こいつ、魔力が高すぎる! 簡単には倒せねぇぞ!」


『僕に任せて!!』


 セラフィスが憑依。蒼い光がアストリアの全身を包み、優しい声が響く。


「背中の羽の根元にある黒い石。その部分を破壊すれば、魔力が消える。」


「さすが……セラフィス。」


 マチルダが思わずつぶやく。


 その視線は、セラフィスの冷静な立ち振る舞いに釘付けだった。


 アストリアが剣を振りかぶると、ドラキュラは突然空気を切り裂くような速さで襲いかかってきた。


 アストリアは素早く身をかわし、マチルダが矢を放つ。


 矢はドラキュラの体をかすめ、煙を上げて消えていった。


「くそっ!こいつ、ただの吸血鬼じゃない!」


 ローハンが斧を振り上げ、突進するが、ドラキュラは羽を広げてその一撃をかわした。


 その時、アストリアは天高く飛び上がり、ドラキュラの背中を目指して突進する。


「くらいやがれ!!!!マグナム・トニトルス(大いなる雷鳴)!!!!!」


 強烈な雷撃がアストリアの剣から放たれ、ドラキュラの背中に命中する。


 その瞬間、ドラキュラの体が一瞬止まり、激しく震えた。


「ううう…!」


 その隙に、マチルダが渾身の力を込めて矢を放つ。


「サギッタ・アルデンス(燃え盛る矢)!!!!!」


 業火を纏った矢がドラキュラの背中に突き刺さり、その黒い石を貫通した。


 ドラキュラは叫び声を上げて崩れ落ち、周囲の魔力が一気に消失していった。


 その後、地下室に閉じ込められていた子ども達が目を覚まし、アストリア達に助けられた。


「ありがとう…!」


 子ども達は涙を流し、感謝の言葉を口にした。


 アストリアは少し微笑んで言った。


「本当に無事でよかった。」


 その後、一行は子ども達を無事に村へと送り返し、呪われた洋館を後にした。


「フン、呪いなんて大したことなかったな。」


 ローハンは余裕を見せて言った。


 アストリアは静かに答える。


「だが、これで一つ、大きな仕事が終わった。」


 マチルダはその言葉に少し照れながら頷く。


「うん、でも、スリルがあって楽しかったわ。」


 一行は村を後にし、旅を再開するのであった。

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