第一部
第3話: 旅立ち
アストリアがセラフィスを自身の心の中に封じ込めてから数年が経っていた。
アストリアは王国中でその実力と強さが評判となっていた。
盲目でありながら卓越した剣術を誇るアストリア。
彼の元から持っている剣の才による所が大きいのであるが、心の中にいるセラフィスのおかげでもあった。
アストリアとセラフィスは、生まれつき「魂の共鳴」という力を持っている特別な双子であった。
この運命とも言うべき不思議な共鳴によって今でも互いの魂が部分的に影響し合っている。
その為、二人はいつでも心の中で会話をすることが可能だ。
通常はセラフィスの意識が表に出ることは制限されている。
しかし、危機的状況下でアストリアが「助けを必要とする」場合には1秒だけだが、セラフィスの魂がアストリアの身体の主導権を握ることが出来る。
この時だけはセラフィスは目が見えるようになる。
その際、アストリアは視界を共有出来ない。
(この「力」は1回発動すると次に使えるまで約15秒のインターバルが必要。)
この「力」によって彼は幾度となく窮地から救われてきた。
彼らは兄弟としてだけでなく、まさに一人の戦士として成長を遂げていた。
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ある日。城のバルコニーにて。
アストリアはセラフィスに心の中で語りかけた。
『俺はこの城の中だけで過ごすのではなく、もっと広い世界を知りたい。未知なる世界に触れることで、俺達の力を試したい。そして、本当の意味で強さを得たい。』
『奇遇だね。ちょうど今僕もそう思ってたところさ。』
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その夜、アストリアは母エリザのもとを訪れ、自分の願いを告げた。
「母上。私はもっと強くなるために、この城を離れ、旅に出たいと思っています。」
エリザは全て悟っていたかのように目を閉じると、黙って頷いた。
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旅の始まりだ。
アストリアが静かに森を進んでいると、突然周囲の気配が変わるのを感じた。
風の音がわずかに弱まり、木々のざわめきが止んだかのような静寂が広がる。
その瞬間、足音が一歩、また一歩と近づいてくるのが耳に届いた。
「おい、坊主。ここで何してる?」
低い声がアストリアの前方から響いてきた。
振り返ると、複数の男たちの気配を感じる。
彼らの息遣いやわずかな衣擦れの音から、アストリアは自分が山賊に囲まれていることを察した。
男達は、彼が盲目であることにすぐに気付いた。
「盲目なのか?だが悪いな、このあたりは俺達の縄張りでな…」
男の声がじりじりと近づき、アストリアは思わず身構えた。
その瞬間、アストリアの内から燃えるような熱さを感じると同時にセラフィスの声が聞こえた。
『僕に代わって!!』
内に眠る弟を呼び覚ます。
その途端に彼の瞳に光が宿る。
目が見えているのはたったの1秒。
だが、驚くべき空間把握能力と頭の回転を持ったセラフィスにはそれで十分だ。
再び意識がアストリアに戻る。
『まずは右前方に男がナイフを持って構えている、距離は2歩だ…左前方に方向に斧を持つ男が、その4歩後ろに立っている。6歩前方には弓使いがいるが、まだ矢は番えていない!』
セラフィスは物凄く早口で状況を伝えた。
右の男がナイフを突き出してきた瞬間、アストリアは身をひるがえし、その腕を掴んで背後に投げ飛ばした。
バランスを崩した男が地面に倒れ込み、呻き声をあげた。
次に左側の斧を持つ山賊が近づいてきたが、アストリアは一歩下がり、斧の軌道を読み切って素早く避けた。
すかさずアストリアは手元の小さな短剣を突き出し、男の腕を軽く切りつけると、男は痛みで怯んで後ずさりした。
最後に残ったのは弓使い。
彼は矢を放とうとしていた。
アストリアはその場から素早く右に飛び、横に矢が空を切る音が響いた。
彼は空中に円を描くように跳ぶと素早く距離を詰めて弓使いの手元を蹴り飛ばした。
「馬鹿な...どうしてこんな動きができるんだ…?」
山賊の一人が驚愕の声を上げた。
彼らは慌てて武器を拾い、口々に叫びながら逃げるように森の奥へと去っていった。
再び静寂が戻ると、アストリアはゆっくりと呼吸を整えた。
『ありがとう、セラフィス。』
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