第4話騒音被害

 この1998年というと、スポーツの面では長野オリンピックの開催とともに大きな関心を集めていたのが、サッカーの日本代表がワールドカップフランス大会に出場するという事である。何しろ日本サッカー界にとっては悲願のワールドカップ初出場であったため、国内が大いに盛り上がったのである。私も時折テレビで見ていたが、何しろ現地の都合のいい時間帯に試合が組まれているため、日本時間だとどうしても夜遅い時間から深夜にかけての中継が多く、仕事もあるので試合の全経過を見るのはとても無理であった。夜遅い時間に差し掛かってきて、賢の睡眠を邪魔してもいけないと思い、私たちは早く眠りについたのであるが、2階のヤンキー兄ちゃんが大勢の仲間を集めてどんちゃん騒ぎをするので、一階で暮らしている私たちはもろに振動や騒音が伝わってきて眠れなくて、大家さんに

「上の住人がバカ騒ぎをして眠れない。産まれて間もない子供もいるので、どうにかしてほしい」

と苦情の電話を入れたのであるが、その苦情を伝えられた兄ちゃんの中間か本人かどうかはわからないが

「誰か~!!。文句を言ってきたやつは~!! 見つけたらぶん殴ってやる」

などとか言っていた。それでもまぁ、この日はそれ以降バカ騒ぎをすることもなく静かになったのであるが、次の日本代表の試合の時もみんなで集まってバカ騒ぎをしていた。あまりにも騒音が酷いので、再び大家さんに連絡して苦情の電話を入れたのであるが、この時は

「勝手に文句言わしてろ。別に少々騒いだってどうってことない」

などと言っているのが聞こえて、静かになることはなかった。おかげで皆寝不足な状態であり、特に睡眠が大切な乳幼児にとっては、この眠れないというのが体調に大きく影響する。みんな疲れた顔で朝を迎えて、私は仕事、さと子は賢を抱えて家の用事をしなければならず、賢も眠れなかったことが影響して、一日ぐずっていたそうである。そして、迎えた日本代表の第3戦。この日は現地時間の昼過ぎに確か試合が開始になったのではないかと思う。私も仕事が休みだったので、少し試合を見ていたのであるが、やはり疲れもたまっていて、皆早く寝ようということで早めに寝たのであるが、この日も2階のヤンキー兄ちゃんは、皆を集めてどんちゃん騒ぎ。真夜中になっても一向に静かにならないので、大家さんに電話してどんなようすか見に来てもらうことにして、電話をかけた

「こうこんなにしょっちゅう真夜中まで大騒ぎされると、子供にもよくないし、私たちも全く寝られん。どうにかしてほしい」

と伝えて、それからしばらくして大家さんが車でやってきた。大家さんとしても、真夜中に叩き起こされて、アパートまでやってこなければならないというのは面白くないだろうし、直接やめるように言わなければならないというのも腹立たしい事だっただろうと思う。大家さんがしばらく私たちの部屋でどんな様子か見た後、2階に上がって

「あんたたち何やってんのよ。みんながどれだけ迷惑しているか解らんの?少しは周りの迷惑も考えなさいよ!」

と厳しく言い放った。

「もうここでこんなバカ騒ぎをするんであれば出て行ってもらうからね。みんなもさっさと帰りなさい」

そう言って2階に集まっていたみんなを退散させて、ようやく静かな夜がやってきた。次の日が日曜日だったため、私もアパートにずっといたのであるが、ヤンキー兄ちゃんが謝罪に来ることはなかった。2階のヤンキー兄ちゃんの隣にも、まだ幼稚園くらいの男の子がいたのであるが、そこにも謝罪にはいかなかったようである。1階の夫婦も

「本当うるさかったよねぇ。あんなに大騒ぎされたら、賢ちゃんも寝られんねぇ」

などと言っていた。このバカ騒ぎはアパートの住人の間ではちょっとした話題にもなっていた。

 大家さんの一喝もあって、それからはおとなしくなった上の階のヤンキー兄ちゃんたちであるが、それからしばらくたったある日、ヤンキー兄ちゃんが彼女を連れてきていた。彼女は車を私が車を出すときに通過するところに停めていて、運悪く私は彼女がそこに停めていることに全く気が付かず、車をバックさせながら私の車を出庫させていたら、いきなりバキッていう嫌な音がして、車を降りてみると、ヤンキー兄ちゃんの彼女の車のフロントバンパー部分に傷がついていた。正直

「これはちょっと面倒なことになったな」

と思った。普通なら、彼女が止めていたところは、車が出入りするときに通るところだっていうことは、常識的に考えてわかりそうなものであるが、何しろ普通の常識が全く通じない相手なので、警察を通さないと、後々厄介なことになるというのは目に見えていたので、まずは車を停めていた当事者のところに連絡をして、それから警察に来てもらって現場検証をしてもらい、調書を作成して、保険会社にも連絡して、会社には少し遅れるということを連絡して、その場をやり過ごしたのであるが、近所の人が事故の一部始終を見ていて

「あれは、あんなところに車を停めさせたほうが悪いのにね」

と言っていたが、まぁ、まったく常識がない相手にいくら言っても無駄であると思ったので、私も

「そうですよねぇ。でも、一般常識がまるで通用しない相手ですからねぇ」

などと言って話したのを覚えている。

そして、2階のヤンキー兄ちゃんとは険悪な状態のまま月日が流れて行って、あっても会釈をする程度の付き合いであったが、いつの間にか引っ越ししていなくなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る