第5話 初日を乗り越える

(えーと、このまま部屋を案内されて____、そのまま寝ちゃったらポックリ逝っちゃったから、とりあえず死因を探さないと。ベッドに何か細工されていた?それか、私が寝た後に斬られた…とかっ?

 ラレムさんを疑いたくは、ないけど…。有り得るよね、証拠がないし。

 だからと言って、再び死ぬのは嫌…、ああもう、どうしたらいいってのぉっ!?)




 ラレムの後ろをついていきながら、一人頭の中でモヤモヤと考え、しかしこんなちっぽけな頭では何も思いつかず……。一体どうすれば良いのだろうか。


 一人葛藤していると、部屋につき彼は重たそうなドアを開けながら、




「こちらです。本日から、お過ごしください。」


「ありがとうございますっ。」


「夜食を作って持ってくるので、お待ちください。」


「わかりました!」




 とりあえず、ここまでは同じルートを辿れている。

 しかし、ここからとでも言うべきか。どうして死んだのか。


 ラレムが去り、足音が聞こえなくなり____ベッドをぺたぺたと触り始める。何か細工がしてあるかもしれない。

 このふかふかのベッドで寝たら死んでしまったのだから。

 極力、人を疑いたくはない。わずかな祈りを込めながら、大丈夫だろうと言い聞かせベッドの隅々まで手を入れ、触る。


 しかし、それっぽいものは何もなく…。いいのか、悪いのか複雑な感情を抱えつつも、取り敢えず安堵する。




「はぁ〜…っ。取り敢えず、ベッドに細工は、なしかぁ。このまま…、どうしよう?えーっとっ、さっきはベッドに寝たら死んだ…、っ………、けどその時間は多分乗り越えた。

 ぇ、まさか、私_____。生き残れたっ!?」




 先ほどの時間を通り越した。

 つまり__、アリサの勝利。勝ち誇ったような気分で、心の中でガッツポーズをしひっそりと歓声を上げる。



 __と、そんな空気感を壊すかのように冷たい声が割り込んできた。





「__アリサ・タナカ様。おりますでしょうか?わたくしは、メイドのフェスナと申します。以後、お見知り置きを。」


「ふえっ。い、いますっ。アリサですっ。」


「___?お部屋に入ります。」


「どうぞ!」




 アリサは、先ほどひっそりと歓喜していたのを聞かれていたかもと感じ、やや恥ずかしく思い肩を少し振るわせ、立ち上がった。

 それに、フェスナといった、ラレムに支えているメイド_____が、若干を疑問を持ち、一拍開けて、小さなドアを引く音を立てながら部屋に入ってくる。


 フェスナは、幼い少女で、年齢は、10代後半くらいで大人に近づいてきている容姿だ。

 ぴっしりと黒系統で、下側は柔らかいスカートになっているメイド服を身に包んでいる。

 しかし、幼さとは裏腹に瞳は酷く冷えており____、その視線は、これが首に刃を当てられているということか___、と錯覚するほどにアリサを突き刺す。



 そのまま、冷たく突きつけたような沈黙が二人の中を駆け巡る。


 フェスナは、その透き通った瑠璃色の瞳と伏せ、その柔らかな口を微かに開き____、アリサには聞き取れないほどの小さな音量で、音を発した。




「ぁ___、__________。」




 その瞬間、フェスナは掌を掲げると、ふよふよと灰色の丸が出てきて、ゆっくりとそれがアリサに近づく。

 不思議そうに見つめていると、不意にフェスナとアリサの視線が交わり、




「逃しません。侵入者。」




 驚くほど冷たい声が彼女から放たれ、ただならぬものを感じ取ったアリサは思わず一歩下がろうとするが、体が動かずないことに気づき、声を上げようとするがそれも叶わず_____。

 灰色の丸がアリサへ近づき____、体の中へ入った。




(うっ!?!?!?)





 急に倦怠感に襲われ、

 ずっしりと、重石がのしかかるような重圧。


 前回は寝ていたから気づかなかったが、起きていると一層苦しく、手足に力が入らず衰えてゆくのを感じる。

 だんだんとぼんやり頭に霧がかかるような感覚を感じながら、先ほどアリサが殺されたのは、フェスナが生み出した灰色の丸い何かであると、理解する。


 もうすぐに命は尽きる。しかし、黙って命の終わりを感じたいわけがない。

 死ぬと分かっていても、行きたいと叫び、なんとか逃げ出そうと必死に足を踏み出そうとするが、未だ金縛りにあっているまま。

 そのまま、だんだんと意識がぼんやりし___、少しずつ、最期がアリサに迫ってくる。



 しかし、しかし_________。



 死ぬのは、怖い。

 おそらく、今ここで死んだとしても再びあのふかふかの草で目覚めるだろう。



 しかし、死は怖い。

 しかし、死は克服できない。

 しかし、死を通り越したくはない。



 当たり前だ。



 死は、冷たくて。

 死は、孤独で。

 死は、残酷で。

 死は、命の呆気なさを象徴していて。

 死は、恐怖で。

 死は、もう2度と関わりたくなくて。


 ああ、いやだ。生きたい。死にたくない。しかし、残酷に体力を、命を灰色の丸は喰い、奪って___。

 意識が保てない。視界が、ぼんやりと滲んで、灰色の丸と、フェスナの輪郭さえ絵の具のように滲んで____。


 意識が、海の奥深くへアリサを引き摺り込もうとするが、死にたくないの一心で踏ん張る。

 しかし_____。


 命は、呆気なく終わりを迎え。

 静かに、消え失せて。


 アリサは、死亡した。


 +++


 完全に、その命が潰えるのを見届けて、フェスナは灰色の丸____邪精霊を手招く。

 この邪精霊は彼女と契約している邪精霊。


 この世で邪精霊とは、闇属性__、つまりはありとあらゆるものを破壊し、力を奪う。忌み嫌われている属性の精霊だ。

 そんな精霊と契約する才能を持つフェリスもまた、嫌われていた。

 だから、同じように嫌われ者のラレムに心を許し、支えている。



 アリサのことをフェスナは不審に思っていた。ラレムを、我が敬愛するあるじを殺そうとしている刺客ではないのだろうか。そう考え、殺害をすることにしたのだ。

 しかし、矛盾する点がいくつかあった。

 刺客にしては、弱すぎる。アリサは呆気なく命を落とし、呆気なく死亡した。間違いなく、フェスナの前にあるこの体は死亡しており、心肺を停止している。死亡だ。


 ならば、なぜアリサはベッドの付近をくまなく触っていのだろうか?

 この疑問は、アリサが刺客ならば筋の通る話である。

 そう、フェスナが仕掛けた睡眠魔法に気がついているのだろう。

 ベッドに寝た際 発動する、術式を見破ったのではないだろうか。


 なら、なぜあんな弱かったのだろうか?

 そんな行き交う矛盾に頭を抱えるが、




「____なんでもいいです。きっと、私たちを見下しているのでしょう。」




 そう締め括った。

 しかし、何かやりきれない感じがする。

 刺客にしては、やけに魔力が少なかったような。


 ベッドを捜索していたにしては、適当に、手当たり次第といったように触っていたような。

 矛盾し、考えが縺れ合う。

 わけがわからなくなり、取り敢えずラレムにアリサは刺客であり、ラレムらを殺そうとしたことをでっち上げることを報告しに行こうと部屋を後にする。


 ______しかし、とある異変に思わず体が硬くなる。

 世界が揺れ、震えている。




「っ!?この、世界の揺れはなんですか…_____!?まさか、七人之神悪アナザーゴッドが、大災厄を起こしたのですか…!?」




 七人之神悪アナザーゴッド_____。

 それは曰く、世界に災厄をもたらすという。

 それは曰く、勇者により魂を封印されたという。

 それは曰く、神だという。

 それは曰く、勇者と大戦乱を巻き起こした時代を「大災厄時代」だという。

 それは曰く、世界のおいての理を破壊する忌むべきものだという。



 これほどの、世界に及ぶ異変。

 七人之神悪アナザーゴッド以外に思いつかない。



 しかし、なぜアリサが死んだこのタイミングで?

 まさか、アリサは七人神悪アナザーゴッド

 いや、そんなバカな話があるか?


 今はそんなことを考えているわけではない。




「早く_____、ラレム様と合流し対処しなければいけないでしょう___っ!」




 言葉に出すより早く、体は動き出していた。早くラレム様の元へ行かなければ。

 早く______!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る