鉄と少年 第8話

「ほんとにそんな異能なのか?鉄を集めてた理由には説明がつくが、それでどうなるんだ?強くなるのが目的なのか?」

「ああ、強くなってエリーゼを守るのが目的なんだよ。さすがに行き過ぎだけどな。異能の正体に関しては、エリーゼに聞けば確証が得られそうなもんだが……」

 二人でエリーゼが眠っている船室の方へ視線を送った。

 俺が目覚めてから、かれこれ一時間くらい。食堂で食事をしながら作戦会議を続けているが、エリーゼはまだ目覚めなかった。彼女の船室の前には三人の誰かがいるようにしているので、目を覚ませばこちらに連絡してくれるはずだ。

「そこに関しては一旦置いておこう。予想がつけば対策の立てようが出てくる。それよりもあいつの居場所だ。まだ襲ってきてないが、おそらくこの貨物船に俺たちがいるのはバレてる。……バレてなくても、時間の問題だ。その前にこっちから仕掛けるぞ」

「たしか、あの三人の隠れ家に鉄があるって噂を流してるんだろ。そこはオレが見張っておく。ガキどもを捕まえれば、あの子が目覚めなくてもアジトの場所がわかるだろうしな」

「すまん、たのんだ」

「その代わり、船が襲われたら全力で守れよ。そのために船員を全部追っ払ったんだからな」

 船が襲われる可能性を考慮して、シリウスが先に船員たちへ休みを言い渡し、近くの街で遊んでくるように言っていたらしい。おかげで船はもぬけの殻。いるのは、俺とシリウス、エリーゼと三色頭の三人組だけだ。ちなみに本業である支援物資の配達は知らないうちに終わっていた。

「わかってるよ。隠れ家の場所は三人の誰かに教えてもらってくれ」


 シリウスを送り出した後、自室に戻りシャワーを浴びることにした。

 服を脱ぎ、巻かれていた包帯をほどくと古傷だらけの体があらわになる。アイゼンに負わされた傷はもう影も形も残っていない。同じ治癒の異能でもこれほど違うのかと、悲しみにも似た不思議な感覚に見舞われた。

 昔、出会った治癒の異能を持った少女は、エリーゼと同じように大きな傷を治せば魔力切れで倒れてしまっていた。ただ大きく違う点が一つ、彼女の異能はエリーゼのように強力なものではなかったため、完全に治すことができず、傷跡が残ったりすることがほとんどだった。

 この体を見るたびに彼女のことを思い出す。いつも死の寸前まで痛めつけられた体を彼女が治してくれていた。そして彼女も倒れるのがいつもの流れだった。

「いかん、いかん」

 感傷に浸る前にシャワーを顔にかけて、感情を誤魔化した。目のあたりが熱くなっているのは、おそらくシャワーの温度設定を間違えたからだろう。たぶんそうだ。

 シャワーを浴びていると、ふいにドンドンドンと船室の扉が乱暴に叩かれた。

「はいはい、なんかあったか?」

 シャワーを止めて、シャワー室から顔を出して返事をした。すると、おそるおそる扉の隙間から青頭が顔を出しているのが見えた。

「エリーゼちゃん、起きたんで呼びに来ました」

「わかった。すぐ行くから、先に行っててくれ」

 わかりました!と勢いのいい返事のあと、走り去っていく足音が船に響いた。と思ったら、すぐにまた足音が近づいてきて、

「すみません、伝えなくてもいいかも……、なんですが、エリーゼちゃんがさすがに古傷は治せないって、悲しそうに口にしてました」

 それだけです。と言いたいことだけ言ってまた走って行ってしまった。

 傷を治したんだから、そりゃ見てるよなぁ。悪いことをしてしまった。これはあの子の優しさだから、治してくれなくたっていいんだ。


 シャワーを浴び終え、ドライヤーで髪を乾かし終わったときには“すぐに”というには時間が経ってしまっていた。

 火照りも収まった体で廊下を歩いていると、なにやら船の中が騒がしい。人なんてほとんどいないはずなので、犯人はわかりきっていた。

「おい、うるさいぞ。……なにやってんだ?」

 ノックもなしに船室に入ると、ベッドから半分体を起こしたエリーゼを中心に馬鹿三人組がトランプに興じていた。

「あっ!兄貴、遅いっすよ」

「……なんでトランプが始まってるんだよ」

「だって、エリーゼちゃんのところに居てって言われたんで」

 意味の分からない謎の理論でトランプ始まったらしい。それでなぜ、トランプを始めるのだろうか。まったくわからん。

「一緒に遊べとは言ってねえよ。……エリーゼと話がしたいから、全員ちょっと部屋の外出ろ」

「「「えーっ!」」」

 ばらばらに文句を言い始める三人組を押し出して、部屋から追い出す。残されていたトランプに関してもまとめて投げ渡し、恨めしそうにこっちを見てくる三人を尻目に船室のトピらを勢いよく閉めた。

「アル、別によかったのに」

「いや、ちょっとあいつらには聞かせられない質問があってな」

 三人がいなくなったことで開いたベッド横の椅子に座り、エリーゼの方へ向きなおす。

 急に俺が真剣な表情になったものだから、エリーゼも顔をこわばらせる。

「アイゼンについて聞きたいんだ。……あいつの異能に関してもそうだが、なんであんなに君を守ろうとするんだ?あの様子は普通じゃなかった。————なにがあったんだ?」

 今までほかの異能者を見てきたが、アイゼンの抵抗は異常だ。普通はエリーゼのように、こちらも同じような力を持っていると知れば、少しは警戒を解いてくれるものなのだが、アイゼンはさらに警戒を強めたように感じた。それには何か理由があるんじゃないかと感じた。

「ちょっと長い話になるかもしれないけど、いい?」

「ああ、いくらでも聞くよ」

 エリーゼは返事を聞くと、ゆっくり息を吸って、自分たちの過去について語り始めた。

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