鉄と少年
鉄と少年 第1話
人工島ドライを昼頃に出て、ほぼ一日の船旅を終えて早朝、某国の港街に着いた。
天気は嫌になるほどの快晴。さびれた港には俺の乗ってきた貨物船以外はなく、錆びついた倉庫街に打ちっぱなしのコンクリートでできた建物が並んでいるだけの寂しい街だった。
一応、人工島から友好関係にある某国への支援物資を実際に運んできた船ではあるのだが、船が泊まっていること自体が珍しいためか、淀んだ目をした街の人たちが睨むように見ていた。
この街のどこかに目的の異能者がいるはずだ。……ほんとにいるんだよね?
船を降りて、街の中へ足を進める。
まずはなんにしても情報が欲しい。船を降りる前にもらった資料を読み返してみたが、目新しい情報はなかった。数年前にマークしていたといっていたが、異能はともかく容姿の情報すらなかった。ただでさえ、今回の依頼はいつもの依頼と大きく違うせいで苦戦しそうだというのにだ。
通常の依頼であれば、依頼を出してきた依頼人や情報提供者などの協力者がいるのだが、今回はそれがない。俺が島に帰るよりも前に襲撃を受け、病院送りにされてしまったからだ。もらっている資料は、その協力者が襲撃の寸前までに集めた情報をもとに作られていた。
支援物資を積んだ貨物船に乗ってきたのも、協力者がいないために安全な拠点を確保することができなかったという特殊な事情によるものなため、通常とは違うことづくめなのだ。
拠点は貨物船という力技で乗り切った。だが、情報面はどうしようもないので、自分の足で収集するしかない、と思って街に繰り出してみたもののちょっと街の雰囲気がよくない。道端に座り込んだ人は不機嫌そうにこちらを睨んでいるし、すれ違う人達もこちらを避けているようだった。あきらかに歓迎されていない。
仕事柄、いろいろな街に出入りしているが、こういうさびれた街ほど、外から来た人間を毛嫌いする傾向があるように思う。人の出入りが少ないので、外の人間がよく目立つためだろうか。そういう街でよそ者が出歩いていると大抵、
「おい、兄ちゃん。おまえ、よそ者だな」
こういう輩に絡まれることになる。
振り返ると、色とりどりの髪の色をした三人組がいた。
年齢は俺とそれほど変わらないくらいだと思うのだが、その言動とアロハシャツとサンダルという大昔のヤンキーのような恰好が頭の悪さを増長させていた。
「あの船から出てきたのは見てたんだからな。何しに来たかはしらないが、金をだせ!金だよ、金!!」
中心にいたプリン頭の男が声を荒げて威嚇してきた。こういう言動も小物感を増長させていることに気づかないのだろうか。
「ワタシ、オカネモッテナイヨ」
適当なカタコトで逃げようと思ったが、さすがにそれで逃げられるほど相手もバカではなかったらしく、すぐさま三人に囲まれて路地裏に連れ込まれてしまった。……必要ないし、ほんとにお金なんて持ってないのにな。
「ここまでくれば、こっちのもんだ。上から順番に脱がせて、金目のものは全部はぎ取っちまえ」
誰もいない路地裏の深くまで来ると、プリン頭の命令でほかの二人が俺の身ぐるみをはがそうとしてくる。普通ならそのまま衣服から何から脱がされて、持ち物を全部取られてしまうのだろうが、相手が悪かった。
「ぐはっ」
「がふぅ」
変な声をあげて、男二人が地面に倒れた。
「なんだ!?なにが起こったんだ」
急に倒れこんだ二人の様子を見て、プリン頭が声をあげた。さすがに一瞬のうちに二人とも気絶させられたなんて思ってもいない様子だ。
「疲れちゃったんじゃないかな」
「お前がなにかやったのか!」
理解不能な状態に動揺したプリン頭が殴りかかってきた。
突き出された右こぶしを華麗に避けると、がら空きの腹部に軽い一撃。ほかの二人とは違って気絶しない程度の一撃だったが、それが逆に良くなかったのか意識を保ったままで普段では味わえない痛みがプリン頭の腹部を襲った。
「ぐおおおぉぉぉぉっ」
苦悶の表情を浮かべた状態で根元の黒くなった頭が地面へとゆっくりと沈んでいく。さきにやられた二人と違って、気絶できないのがかわいそうなくらいだ。
こいつだけ気絶させなかったのは、カツアゲされかけた腹いせでは決してなくきちんとした理由が存在している。
「なあ、プリン頭の兄ちゃん。聞きたいことがあるんだが、この街でガキどもが集まってなんかしてるらしいだが、なんか知ってるか?」
「ああ!?知っててもだれが教えるかよ」
いまだに痛みを訴える腹部を抑えながら、絞り出すように声を荒げているが威勢のよさだけで力強さはない。元々怖くはなかったが、こうなると俺が弱い者いじめしているみたいで気分が悪い。
「じゃあ、教えてくれるまで一緒に遊ぼうか?」
口元がひどくゆがんでいるのが自分でもわかった。
「いっでぇえええ!わかった!教えるからもうやめてくれよぉ」
戯れているとプリン頭はすぐに話してくれる気になってくれた。すこし戯れ方が激しかったせいか、人差し指があらぬ方向へ曲がってしまっていたが、それもまあ許容範囲だろう。
「なら、応急処置してやるから早く話せ」
「……最近、変な二人組がこの街に現れたんです。俺は見たことないんですけど、背の高い男と女の子って言ってました。その二人がここら辺一帯にいたガキどもをまとめあげて鉄を集めてるらしいです」
「……鉄を?なんで?」
「さすがにそこまでは……。けど、ここには廃材がいっぱいあるから、集めるのは簡単だと思います。こんな廃れた街じゃ、無くなっても誰も気にしないし」
ちゃんと話してみればプリン頭は思ったよりも理性的な話ができる人物だった。情報自体も多くはないがまとまっていてわかりやすかった。
プリンの言っていた二人組、普通に考えてもかなり怪しい。鉄を集めている理由はわからないが、異能者であると仮定するならば、鉄に関する異能を持っていてその力を高めるためと考えられなくもない。
「そうか。……よし、これでとりあえず大丈夫だろ」
一息に包帯を締めあげると、プリンは声にならない悲鳴を上げた。
「……ありがとうございます。……あれ、でもこれ、あんたのせいじゃ……」
涙目でなにやらわけのわからないことを口にしている。応急処置をしてあげたのだから、感謝するのは礼儀だろうに。
「知ってることはそれくらいか?」
「はい……、だから、もう勘弁してください……」
まるで目の前にいるのが、いつ襲ってくるかわからない野蛮人みたいな恐怖に支配された目でこちらを見ている。そんな状態で両手を合わせて懇願されてしまえば、これ以上なにかする気になんてならなかった。
「知ってることがそれだけなら、もう手は出さねえよ。そこの二人も連れてとっとと帰んな」
「ほんとに!?……おい、おまえら、起きろ。さっさと逃げるぞ」
帰っていいと言った瞬間、プリン頭はバタバタと気絶していた二人をたたき起こし、路地裏のさらに奥へと消えて行ってしまった。なんだか、うるさい連中だった。
「まあ、いいか」
独りつぶやくと、連れてこられた道を戻って、次の情報を求めて街の中へ歩き出した。
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