@uktion

中田もな

第1話

 その日は、埃がひどく立ち込めていた。息を吸う度、喉が痛んだ。

 ベルリンは、もの凄い人だった。戦後初かと思うほどの、罵詈雑言の嵐だった。


 市民は一斉に奮起した。ソ連の悪政に耐え兼ねて。だが、ただ巻き込まれただけの運のない奴らもいた。実際、俺は全くもって無実だったが、「東ドイツで暴動を起こした人間」と一括りにされ、訳のわからん野郎に連行された。


 ……いや、野郎は偶然を装っていただけで、本当は俺を狙っていたのかもしれない。真相は分からないが、とにかく俺は連れ去られたので、こんな回想をする羽目になったのだ。


 悪態。憤怒。血反吐。

 暴力。暴力。暴力。


 激化する闘争を横目に、俺は車に押し込められた。

 その途中で、一つ、思い出したことがあった。


「撃て!」


 WW2、終戦間際。俺は敵兵を前にして、引き金を引くことができなかった。


「撃て! 撃てよ!」


 声がする。戦場を共にした、友人の声だ。


「何故だ!! 何故、撃たない!!」


 奴は最後の最後まで、必死になって抵抗した。そのせいで、俺は見逃されたが、奴は敵兵に連行された。


 奴がどうなったのか、俺は知らない。だから度々、その姿が脳裏をよぎる。

 奴は純粋すぎた。羨ましすぎるほどに。

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