【カクヨムコン10参加】始祖の女神と信仰世界(ファイスヲルド)
glam@星詠み ボカロP
第1話 女神様との出会い
「ジード・エルメット。彼から聞いたが、今回も試験の合計点数が450点を上回ったのは君だけだそうじゃないか。おめでとう。是非、次回も頑張ってくれ」
彼、が誰を指している言葉なのか理解に少し時間がかかって、それが担任のことなのだと検討がついた。わざわざ校長先生に言うようなことだっただろうか?
それと、廊下ですれ違ったことが何度かあるだけで、こちらはあまり校長先生との面識はないのだが。
「ありがとうございます。次も結果を出せるように頑張ります」
ただそれだけ言い残して、僕は先へ進む。
図書館に入り、背負ったバクパクから冒険譚の本を取り出し、返却カゴに入れる。文学コルネルの本棚の前でしゃがみ、返した本の続きを手に取る。そのまま貸し出し用の名簿に記入を済ませ、図書館を後にする。
冒険譚を読んで格好いい妄想に明け暮れる。僕にとって勉強以外にすることといえば、これくらいだった。
小さな頃から憧れた冒険者の道。輝かしい英雄になるべくダンジョンへ乗り込む自分の姿を想像しては胸を躍らせていた。
けれど、親にその道を反対された挙句、冒険者としての適性が診断にて皆無であることが判明してしまった僕は、大人しく学業の道へ進んだ。
それでも冒険者たちに関わることを諦めきれなかった僕は魔法や魔法道具に関する研究をこの高等学校やウニベルシティで行い、新しい発見や発明で冒険者たちを助けようと勉強を頑張ることにした。
校舎を出て、西の空を仰ぐ。もう日は煌々としながら沈むところで、東の空を仰げば藍が差していた。時間を気にせずに勉強していると時間はあっという間だ。
季節は秋だが気温は冬寄りで、上着だけでなく手袋と首巻きがなければ帰るのが辛いほどに風が鋭利。
学校の敷地を出れば大きな道路に面していて、近くには市場もあって日の出ている間は活気が盛んだ。この頃はナギという神様の感謝祭の影響で夜も市場の多くの店が賑わっている。
そこで僕は昼ごはんに学食を食べる予定が研究のまとめの所為で食べ忘れて空腹だったことを思い出す。
たまには、買い食いしてから帰るか。どうせ父さんと母さんは旅行に行って家にいない。何時帰ろうが僕の自由だろう。
市場に差し掛かったところのパン屋では丁度、焼き立てのメロンパンを売っているところだった。焼き立てなだけに、久しぶりに目にするそれがとてもおいしそうに映った。
「すいません、それ1つください」
「110ジェピイね」
代金を払い、温かいメロンパンを受け取る。
かじりつけば、ふわっとした食感とともに甘い風味が舌先から僕の心身を満たしていく。正直、お値段以上だ。
路上で食べるのは他の人々の迷惑になる。僕は建物同士の間の細い路地へ入り込み、もう一口かじった。
すすり泣くような声が聞こえてきたのはそれからまもなくのことだった。
少女のすすり泣く声。街中である以上、声真似上手なヴォイタチオによるものではないだろう。
あたりを見回してすぐ、少し離れたところに少女――いや、どちらかといえば幼女――がしゃがみ込んでいるのを見つけた。
少女は綺麗で艶やかな純白の髪を持っているが、服装は奴隷が着るようなボロボロの麻布を纏っているだけだった。
迷子だろうか?一見主人のもとから逃げてきた奴隷のように見えるが、綺麗すぎる髪がそれを否定していた。
とりあえず、このまま放っておくことはできない。
「ねぇ、君。もしかして迷子?」
少女は何も言わない。ただ、首を横に振った。
「もしかして、家出?それともお父さんかお母さんに怒られて家に入れてもらえないの?」
家出のほうには首を横に振ったが、後のほうには首を縦に振った。
「そっか。怒られるようなことをしたのはいけないけど、家に入れてあげないのはどうかな?こんな寒いのにそんなことするなんて酷いな。僕から何か言ってあげようか?」
「…無理だよ。君の声を聞いてくれるような連中じゃない。それこそ、7体の<美徳の魔獣>全てを討伐した大英雄くらいの人間じゃなきゃ」
俯きながらも顔を上げ、口を開いたこの
「ダメだよ、大切な親さんを連中なんて呼んじゃ。それに、<美徳の魔獣>を倒した英雄なんてまだ誰もいないし、そんなに難しいことなの?」
「親じゃない。連中は私より数百年、数千年遅く生まれてきた奴らばっかだ。中には私と同時期に生まれた奴もいるけど」
数百年?数千年?この娘は俗に言う『厨二病』をこじらせているのだ。これは相当複雑な家庭で育ったのだろうな。それとも、友達との遊びの話だろうか。
「さっきからちょっとよく分かんないことばかり言ってるけど、君は何者なんだ?」
「私は…」
少女が何かを言おうとした時、誰かのお腹がなる音が響き、二人とも黙ってしまう。
そして、憂鬱な表情だった少女の顔に赤みが差し、恥ずかしそうな、慌てた表情になった。
「やっぱり、君もお腹空いてるんだね。ほら、僕の食べかけでよければだけど…。メロンパン、いる?」
「メロン…パン?」
どうやら彼女はメロンパンを知らないらしい。本当にこの娘はどんな環境で育ってきたんだろう?
僕は恐る恐るメロンパンを少女の目の前に差し出す。少女はそれを手に取ると、少しその甘い匂いを嗅いだあと、思い切ってかじりついた。
「う、うまい!」
神秘的な金と碧の目を見開く。
初めて食べたらしいメロンパンに相当の衝撃を受けた少女は、そのままあっという間に平らげてしまった。
僕もまだ食べたかったような気がするけど、メロンパン1つでこの娘が笑顔になってくれたのだから、それでよかったのだ。
「いやぁ、まさかこっちにはこんなに美味しいものがあるなんて。案外、このままずっと人間と生活していくのも悪くないかもなぁ。けど、アイツらに好き勝手させるのも癪だしなぁ…」
この娘は相変わらず不思議なことを言い続けている。
「それで、結局君は何者なんだ?」
「私はナギ。俗に言う<始祖の女神>だよ」
言葉を咀嚼するのを待たず、僕は土下座をし、しっかりとおでこを地面に着けた。
これだけ綺麗な髪と瞳の持ち主なのだ。その言葉を疑うことはできない。
「申し訳ございません、ご無礼を働いてしまったことを許してくださいとは言いません。しかし、どうか命だけは…」
「許せとは言わない?別に私怒ってないし、謝らなくてもいいよ。それに、君は私を助けようとしてくれた挙句あんなに美味しいモノをくれたんだからね。こちらこそありがとう」
「いえいえ、そんな感謝されるようなことはしてないですよ」
まさかこんなところに女神様がいらっしゃるとは思いもしなかった。そもそも、地上に神様達がいらっしゃるなんて考えたことすらなかった。
「ところで、何故女神様が地上にいらっしゃるのですか?」
「それがねぇ、気に食わないことがあったから揉めた相手の神を消しちゃったの。そしたら、地上に2000年追放される罰を言い渡されちゃって…。しかもまだ半日しか経ってないんだよ」
女神様は随分と落胆していらっしゃる様子だ。ここは僕がどうにかしなければ、罰が当たる。
「それなら、僕の家に来ますか?今夜、僕以外誰もいないんですよ」
「え?!いいのかい?」
「もちろんですよ。目の前で神様が困ってるのに助けない人間なんていませんよ」
僕は女神様に手を差し出す。女神様は僕の手を取り、二人で歩き出した。
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