第31話 第一章 第十三節:近代への進化

 第二次世界大戦の終結により、日本は敗戦の痛みを抱えつつも復興への道を歩み始めた。しかし、その影には、戦争によって増幅された怨念や妖怪たちの活動が密かに広がっていた。破壊された街や廃墟となった村には、戦死者や犠牲者の思念が漂い、そこから生まれた妖怪や怪異が新たな脅威となっていた。


「戦争は終わったが、闇はまだ消えていない。むしろ、これからが本当の試練だ」

北条誠一郎はそう語り、冥府機関の再編を進めていた。


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復興とともに、冥府機関もその活動を都市部へと移行していった。これまでのような隠遁した拠点ではなく、戦後の都市開発の中に溶け込む形で活動を続けた。新たな拠点は東京の地下深くに設置され、最新の科学技術と伝統的な霊術を融合させた装備や施設が整えられた。


「この時代、妖怪だけでなく、科学技術の暴走もまた脅威となる。両方に備えなければならない」

北条の後継者として指揮を取ることになったのは「藤堂一真(とうどう かずま)」という若きリーダーだった。彼は、科学と霊術の融合を進めることで冥府機関の新たな道を切り開くことを目指していた。


異変:横浜の怪火


戦後復興が進む横浜港で、突然の怪火が発生した。それは普通の火事ではなく、不自然な速度で広がり、人々を恐怖に陥れていた。調査を進めると、その火は「怨火(おんび)」と呼ばれる妖怪の仕業であることが判明した。


「怨火は戦争で犠牲になった者たちの思念から生まれた妖怪だ。その力は、無念の感情を取り込むことで増幅する」

藤堂は事態の深刻さを理解し、現場への出動を決断する。


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横浜港に到着した冥府機関のメンバーたちは、港を覆う不気味な赤い炎に圧倒された。火は建物だけでなく空気そのものを燃やしているように見え、周囲には焦げたような臭いが漂っていた。


「この火……ただの炎じゃない。触れるだけで魂を燃やされる……!」

霊術師の「白石蓮(しらいし れん)」が炎の性質を解析しながら警告する。


「怨火を止めるには核を探して破壊するしかない。全員、散開して核を探せ!」

藤堂の指示でチームが動き出す。


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怨火は巨大な蛇のような姿を形成し、港を這い回っていた。建物に触れるたびに火が広がり、人々の恐怖を吸収してさらに巨大化していく。


「こいつ、どこまで成長するんだ!」

剣士の「南条翔(なんじょう しょう)」が怨火に切りかかるが、炎が刀を弾き返す。


「待って、霊術で炎を抑える!」

白石が術式を展開し、炎の動きを一時的に封じる。だが、怨火の力があまりにも強大で、結界が次々と破られていく。


「藤堂、ここで影喰いを使わないと……!」

メンバーの一人が訴えるが、藤堂は首を振る。


「影喰いを使うのは最後の手段だ。怨火の核を破壊すれば、力を封じられるはずだ!」


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ついに怨火の核が発見される。それは横浜港の倉庫に隠されていた、戦時中の残骸――燃え尽きた軍需物資と、犠牲者たちの遺品だった。


「これが……怨火の核か」

藤堂は核を前にして呟く。怨火はその周囲で激しく暴れ、近づく者を焼き尽くそうとしていた。


「結界を最大限に張る!藤堂、核を破壊して!」

白石が最後の力を振り絞り、結界を強化する。そのタイミングで藤堂が怨火の核に向かって突進する。


「これで終わりだ!」

藤堂が霊術を込めた刀を振り下ろすと、核が砕け、怨火の体が崩れ落ちた。燃え盛っていた炎が一瞬で消え、横浜港に静寂が戻った。


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怨火を封じることには成功したが、藤堂たちはその代償として大きな疲労を抱えていた。さらに、今回の事件を通じて、黒羽根の女が怨火の成長を促していた痕跡が見つかった。


「黒羽根の女は、人間の怨念を利用して妖怪を増幅させている……」

藤堂はその事実に苛立ちながらも、次なる戦いに備え、冥府機関の強化を進める決意を固めた。


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昭和後期に入り、冥府機関はさらに現代的な技術を取り入れていった。妖気を感知するレーダー装置や、封印術式を内蔵した特殊な武器などが開発され、組織の戦力は飛躍的に向上した。


一方で、黒羽根の女の活動も激化しており、彼女の最終的な目的が徐々に明らかになっていく。彼女は単に混乱を拡大させるだけでなく、「世界そのものを闇に覆う」ことを目指しているのではないかと推測され始めていた。


「私たちが立ち止まれば、闇は広がるだけだ。冥府機関の使命は、時代が変わっても変わらない」

藤堂は静かに語り、次なる戦いに向けて準備を進める。黒羽根の女との本格的な激突が近づいていた。

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