第20話 第一章 第二節:旅立ち
村を後にした若者たちは、果てしない荒野を進み続けていた。空はどこまでも灰色で、遠くにはかつて神々の加護があったとされる大地が広がっていたが、今やそれは荒廃し、妖怪たちの影が巣食う場所となっていた。
彼らの旅は静寂と緊張に包まれていた。足音と風の音だけが響く中、葉月が口を開いた。
「……どうするつもりなの?伊織様は、闇を封じろと言ったけど、それがどういうことかも分からない」
「俺たちは伊織様に言われた通りに動くだけだ。迷っても仕方ねぇだろう」
力持ちの大輔が、前を歩きながらぶっきらぼうに答えた。
「でも、どこへ行けばいいのかも分からないじゃない。私たちだけで本当に――」
「分からなくても、進むしかないだろ」
言葉を遮ったのは俊介だった。村一番の身軽さを誇る彼は、最も冷静で現実的な性格をしている。
「とにかく、まずは生き延びることだ。それに、こうして歩いていれば何かしら手がかりが見つかるかもしれない」
言葉の通り、彼らは目的地も明確な手段もないまま旅を続けるしかなかった。だが、その先で待ち受けていたのは、さらに過酷な運命だった。
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数日後、彼らは人里離れた荒野に差し掛かった。そこは「影の谷」と呼ばれる場所で、人々の間で悪名高い土地だった。太陽が昇ることのないこの谷では、常に霧が立ち込め、遠くを見渡すことすらできない。だが、谷を迂回する時間はなく、彼らは迷わず進むことを選んだ。
「……嫌な感じがする」
葉月が霧の中で足を止め、呟く。その声には震えが混じっていた。
「気にするな。ただの霧だろ」
そう言いながらも、大輔は斧をしっかりと握りしめていた。
だが次の瞬間、霧の中から低い唸り声が響いた。それは人間の声とは明らかに異なり、どこか獣じみた不気味な響きだった。若者たちの視界の中に、巨大な影がぼんやりと浮かび上がる。
「……来るぞ!」
俊介が短剣を抜き、身構える。その瞬間、影が霧を裂くようにして飛び出してきた。それは「朽木の鬼」と呼ばれる妖怪だった。腐敗した木々が絡み合い、歪な形を成したその体は、谷の霧と同化するように蠢いていた。
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「くそっ……こんな奴、どうやって倒すんだ!」
大輔が斧を振り上げ、朽木の鬼の胴体を力強く叩きつけた。だが、その一撃は木の幹に吸い込まれるようにして、ほとんど効果を与えなかった。
「硬すぎる……!」
大輔が後退しながら叫ぶ。俊介がその隙を突いて鬼の側面を狙い、短剣を突き刺すが、やはり表面を掠めるだけだった。
「このままじゃ埒が明かない……!」
葉月が震える声で言う。彼女の力はまだ未熟で、霊的な術を使えるとはいえ、この状況をひっくり返せるほどではなかった。
「引くか……いや、ここで逃げたら何も変わらない!」
大輔が再び斧を振り上げようとしたその時だった。
霧の中から新たな気配が現れた。それは、異様に鋭い眼光を持つ老人だった。彼の手には一本の杖が握られており、その姿はどこか神秘的で不気味ささえ感じさせた。
「お前たち、ここで死にたくなければ黙って見ていろ」
老人が杖を振り上げると、その先端から青白い光が放たれた。それが朽木の鬼を貫いた瞬間、鬼の動きが止まり、やがてその巨体が霧の中へと崩れ落ちた。
「お前たちは一体何者だ?」
老人は、怯えながら立ち尽くす若者たちを冷たい目で見つめて言った。
葉月が一歩前に出て口を開く。
「私たちは村を追われ……闇を封じる方法を探して旅をしています。あなたは……何者なのですか?」
「俺か? 俺はただの流れ者だよ。だが、今の時代にそんな目的を掲げて生きている連中がいるとはな……」
老人は若者たちの話を聞くと、ふっと笑いながら、手にした杖を地面に突き刺した。
「いいだろう。お前たちが本気で闇を封じる気ならば、一つだけ教えてやる。お前たちには力が足りない。だが、それを補うための方法がある」
老人はそう言うと、周囲の霧を指さした。
「この谷を抜けた先に『影喰い』と呼ばれる刀が眠っている。それは、この世界を救うための力を持つ代物だ。ただし、それを得るためには……覚悟がいるぞ」
若者たちは顔を見合わせた。彼らの中で「影喰い」という言葉は未知のものだったが、その名に宿る力の響きに、本能的に何かを感じ取っていた。
「……分かりました。その刀を探します」
葉月が答え、他の若者たちも静かに頷いた。
「ならば行け。そして二度と戻れぬつもりでな」
老人の冷たい言葉に、若者たちは決意を新たにして谷を後にした。
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