第48話 チェンとの約束①
ノア率いる一団が目的地へ辿り着くと、簡単な検問を受けたのち、ついにコズモへの謁見を許された。
道中で目にしたコズモ配下の第一区最大のコミュニティは、人類の叡智を取り戻そうとするかのような発展を遂げており、無法者が集う第六区と比べれば、まるで異なる文明圏に足を踏み入れたかのような印象を与えた。
プエブロを思わせる壁沿いの住居。通貨が流通しているのか、買い物客が行き交う市場。ホームバイクを漕ぐ人々(後にそれが生活用電力を生み出す仕組みだと知る)のおかげで街は明るく、第六区のような霧も漂っていない。
レストランと思しき店にはハルモニア現地の食材が並び、黒板にはメニューらしき文字。墜落以来嗅いだことのない、香ばしい匂いが漂っていた。
そして何より驚かされたのは、着飾り、笑みを浮かべながら歩く人々の姿だった。陰鬱な第六区では決して見られぬ、生命力に満ちた光景である。
「これほどまでの差が出るとは……」
ディアボロとの戦闘、人々の民度、資源、そしてコミュニティとしての成熟度――そのすべてに歴然たる差があることをノアは理解していた。それでも、コズモの卓越したリーダーシップをまざまざと見せつけられた気がして、胸の奥が重く沈んだ。
「こりゃもう、立派な街じゃねえですか」
元暗殺組織No.5のバシリスクは、感嘆を隠さず街を見渡した。表情には出さずとも、仲間たちもまた圧倒されていた。すでに「ギリギリでのサバイバル」という印象は薄れつつあった。
⭐︎⭐︎⭐︎
コズモの居所は、ほかの家よりやや立派な造りの邸宅だった。庭のような空間で一団が待たされると、ほどなく護衛を伴ったコズモが姿を現す。その背後には副船長ステラと、第六区から随行した水菜の姿もある。
「ノアさん! それにマニーシャさん、ウールさん、バシリスクさんも!すっかり元気になられたようで何よりです。それで、こちらは神父殿と……どなたかな?」
一同が立ち上がり、レイナーが自己紹介しようと一歩踏み出した時、ペンタクロンが口を挟んだ。
「こちらが、新しい教皇様です」
「教皇……!」
ミズナが目を見開き、コズモも「ほぉ……」と低くつぶやく。
「レ、レイナーと申します。よろしくお願いします」
「うむ。――で、そちらのお嬢さんは?」
コズモは薄汚れた服のアリアに注目した。その姿に憐れみの眼差しを向ける。
すぐにレイナーやノアらが事情を説明し、それを聞くや否や、すぐにシャワーと着替えを用意するように言い、アリアは護衛の1人の女性に連れられ、奥へと消えていった。
「さて、ようやく落ち着きましたな。ささ、お腹も空いているでしょう。まずは食事でもしながら、お話を伺うとしましょう」
出されたキュリー(棘のないサボテンのような現地種)を使ったスープを口にしたレイナーは、思わず大声を上げた。
「うめぇ!」
それに続き、仲間たちも食事を始め、舌鼓を打つ。
「素晴らしい……。現地の食材をここまで美味に仕立てるとは」
ノアは、文明の差を痛感し嫉妬させられながらも、コズモに対し抑えきれぬ敬意を覚えた。
「料理人たちの努力の賜物です。それに、この水菜氏が作ったデバイスのおかげで成分分析や毒性の判定ができ、早くから食材を流通させることができました」
「ほぉ、なるほど……」
ノアが頷く横で、ウールは別の意味で感心していた。
和やかな会話が続く間も、護衛たちは一瞬の隙も見せず、コズモ自身も常に動ける姿勢を崩していない。
流石は元軍人、と言ったところか……
コズモは今度は伏せぎみに目をチラつかせる三人組に話しかける。
「……ところで、そちらのお三方。もう少し気を緩めてはどうかな?」
促されたウールは口元を吊り上げる。
身構えているのは、元暗殺組織の三人も同じだったことにコズモはとうに気づいていたということだ。
「職業病だ。他意はない。気にせずに続けてくれ」
「……そうですか。ですが、まさに今しがた、あなた方三人にこそ話を伺おうと思っていたのです」
コズモの瞳の奥には、射抜くような光が潜んでいた。
第49話「チェンとの約束②」へ続く
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