第9話 ファイナルゲーム(その1)
セーラーとワンピとブレザーと、ブレザーに手を引かれたスクールセーター、そして、充駆は夜道を歩いていた。
充駆のかたわらにはもちろん十センチのイートンが浮いている。
向かう先は充駆がいつもイートンやボレロと待ち合わせをしていた丁字路脇の公園である。
公園に入る前にひとり立ち止まった充駆は丁字路を見渡す。
理未が事故にあった丁字路を。
その頭に制服評議会が最後に残した言葉がよぎる。
「けっ」
湧き上がる不快感を抑えきれず、思わず電柱を蹴とばした。
最後に公園に入った充駆を見ながらセーラーがイートンにささやく。
「自分で告げるか?」
横からワンピが。
「オレが言ってやろうか」
しかし、ブレザーは。
「いいえ。これはイートンの仕事ですわ」
イートンが。
「私が言います」
そして、すいと空を泳いで充駆の前に出る。
「充駆さん……今までありがとうございました」
「……やっぱりかい」
予想していたイートンの言葉を受けて、充駆はポケットから小さなビンを取り出す。
それは充駆の部屋に制服評議会が残したビンであり、イートンを元の
そのビンを街灯の明かりに透かして見ながら自嘲気味に笑ってみせる。
「そう言うと思ったんだよなあ。確かにもう僕は必要ないんだし」
元のサイズに戻れるだけの思念エネルギーが付与された以上、充駆と存在を共有する必要はなくなったのだ。
その言葉にイートンの目から涙が零れる。
「そんなこと言わないでくださいっ」
思わぬ反応に充駆は頭を下げる。
「……ごめん」
改めてイートンが口を開く。
「そうじゃなくて、もう思念エネルギーが手に入ったからじゃなくて……これ以上、充駆さんを巻き込みたくないんです。ご迷惑をおかけしたくないんです。充駆さん……今まで短い間でしたけど……本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるイートンを見る充駆の心中で、さまざまな感情が湧き上がり渦を巻く。
こういう場合はどう答えたらいいんだろう――そんなことを思うが、結局、口を衝いて出たのは。
「……こっちこそ、ありがとう」
そんなありふれた言葉だった。
ただ、一言目が出たことで幾分気が楽になったのか、あるいはその一言が呼び水になったのか、充駆自身が意識しないまま次々と言葉が続く。
「最初にボレロに言われた通り、いつ死んでもいいと思ってた。生きていたくないと思ってた。でも、今はそんなこと考えてない。イートンと一緒にいて、セーラーさんやワンピさんやブレザーさんたちと出会えて……面白かった。楽しかった。周囲に嫌な奴しかいなくても、毎日、嫌なことしかなくても……それでも、生きてたことで楽しいこととか面白いこととか……充実した時間と出会うことができた。イートンのおかげで……僕は……だから……本当にありがとう」
「……充駆さん」
充駆は瞳を潤ませるイートンにビンを差し出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。