第5話 殺しあう!(その3)
イートンの声に意識を戻したのと同時に、手近の机に飛び乗ったセーラーが並ぶ机を
その異常な速さに充駆が硬直する。
瞬く間にセーラーが充駆から見て二列目の机に達する。
間合いに入った。
槍斧を振りかざす。
がっ。
槍斧の先端が天井に食い込んで阻まれた。
これはチャンスだろ――充駆ががら空きになったセーラーの脇腹をハンマーで横殴りに振り抜こうとした瞬間、イートンが叫ぶ。
「罠です、離れてっ」
その言葉に充駆はバックステップで距離をとろうとするが、ほんの一メートル後ろに並ぶロッカーにさえぎられて距離をとれない。
しかたないと横っ飛びに窓側へ離れるのと同時に教室最後列の机に飛び乗ったセーラーが槍斧を突き出す。
あっさりと窓際へと追い詰められた充駆はハンマーで窓枠ごとガラスを砕く。
そして、一旦ハンマーを光の粒に拡散させると鼻先を校舎側へ突き出して停まっている乗用車のボンネットへ窓から飛び移る。
そのまま、べこべこという音ともに乗用車の屋根を凹ませながら走り抜けて車体後部からアスファルトの地面へ降りる。
そして振り返り、セーラーが後を追おうと同じクルマのボンネットへと飛び乗った瞬間、ハンマーを出現させてリアバンパーを思いっきりぶったたく。
車体が滑るように前へ出た。
ボンネット上のセーラーがバランスを崩しながらも跳躍し、着地と同時に充駆へと槍斧を突き出す。
充駆はその槍先をかわすと、回り込んだ別の車体をハンマーで横殴りに殴ってセーラーへと押し出す。
こうするしかなかった。直接ぶん殴るには射程が足りない――となると別のものを利用するしか。
そこで気付く。停まっている十数台の中にバックドアが開いているミニバンがあることに。
利用できるかもしれない――充駆はミニバンに向かって走ると、そのままバックドアに飛び込み、閉じる。
そして、這うように助手席へ移動して、なにか使えそうなものはないかとあちこちを開けてみる。
探し物という作業に集中しているせいか、あるいはセーラーとの対面から逃れたせいか、さらには“車内”という強固な鎧に身を収めてるせいか、さっきまでより少し余裕が出てきた。
助手席で開いたグローブボックスをがさがさとあさりながらイートンに声を掛ける。
「最初のさ」
「はい?」
「“罠ですっ”て、どういう意味?」
「セーラーさんが充駆さんを試したんだと思います。あそこで充駆さんがハンマーを手に一歩前に出たら同時に突いてたはずです」
「その槍斧が天井に引っかかってるのに?」
「見せかけです。武器はいつでも好きなタイミングで消したり出したりできるんですから」
「あ、そうか」
そこまで言われてようやく気付く。
天井に引っかかった槍斧は一旦消して、構え直した右手に出現させればそれで済む話なのだ。
だから、あのあとすぐに最後列の机から槍を突き出すことができたのだ。
遠くでガラスが割れる音がした。
反射的に顔を向けると一年六組の窓ガラスが散乱していた。
同時に校内放送が告げる。
「おうおう。一年六組で行われていたワンピ対ボレロはワンピの勝利で終わりやがったぞ。ひゃひゃひゃ」
ボレロが死んだ?
その時、車体が大きく揺れた。
「充駆さん、上っ」
イートンの声に顔を上げる。
天井からセーラーが振り下ろして食い込んだ斧刃が覗いていた。
視界の隅、窓の外で動いた影に顔を向ける。
助手席の窓から覗き込んでいるセーラーと目があった。
セーラーが一歩下がって突き出した槍先が助手席の窓を破り充駆の頬を掠める。
充駆は姿勢を落とすとドアロックを解除して助手席のドアを思いっきり蹴り開く。
ドアの衝撃を受けたセーラーの身体が吹っ飛んだ。
その隙に運転席へと身体を滑らせて外へ出る。
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