第5話 殺しあう!(その2)

 南校舎の中央にある生徒玄関を入ってきょろきょろと左右にのびる廊下を見渡す。

 左の突き当たりは体育館であり、その手前に西階段、トイレ、保健室、そして、一年六組から三組までの教室が並んでいる。

 右の突き当たりは職員玄関で、その手前に東階段、トイレ、職員室、校長室、放送室と続いて一年一組と二組の教室がある。

 この校舎は充駆の通っている学校とは逆で、一階から上へ一年生、二年生、三年生の教室になっている。

 少し緊張しながら足を進めて、一年一組の引き戸に手を掛ける。

 遠く背後でぱたぱたと足音が聞こえて振り返る。

 一年六組の教室へ走っていくボレロの後ろ姿が見えた。

 充駆の中に一回戦の相手はボレロではないことがわかって安心したような不安なような、どっちともいえない感情がわき上がる。

「ボレロじゃないということは……」

 思わずつぶやく充駆にイートンがささやく。

「セーラーさんかワンピさん、ですね」

 このふたりとブレザーについては、音楽室で声を聴いただけでなんの事前情報もない、顔すらも知らない。

 そんな相手を予想してもしょうがないと教室の後方に当たる引き戸を静かに開く。

 そして、警戒しながらそっと教室内を覗き込む。

 人がいる気配はない。

 室内へ入って全体を見渡す。

 やはり、誰もいない。

「まだ来てない?」

「みたいですね」

 だからといって突っ立っていられるほどの余裕はなかった。

 緊張している時こそじっとしていられないものなのだ。

 無人の教室を横切って窓を開く。

 外は職員用の駐車場になっており、これまで見てきた通り数台の自家用車が停まっている。

 背後で扉の開く音が聞こえた。

 振り返る。

 充駆が入ってきたのとは逆の――教室前方の扉から入ってきたのはロングヘアの少女だった。

 身長は百六十センチを超えているだろう彼女を一瞥して、充駆はそれが“セーラー姐さん”であることを理解する。

 なにしろ着ているのがセーラー服だからまちがいない。

 思わず見惚れるほど美しいが、どこか人を畏怖させるようなオーラをまとっている。

 生徒玄関から遠い教室前方の扉から入ってきたということは、充駆とは違って職員玄関側から校舎に入ったのか、あるいはこだわりやゲン担ぎのような理由であえて前方の扉を選んだか――そんなことを思いながら充駆はセーラーに対してこれまでに知っている情報を頭の中で整理しようとするが、知っているのは“前女王であるということ”しかないのであきらめる。

「お待たせ。始めようか」

 静かに口を開いたセーラーの右手に光が集束して現れたのは二メートルほどの槍斧ハルバードだった。

 充駆が緊張の中で返事も忘れて右手にハンマーを集束させる。

 そして、身構える。

 教室の正面にセーラー、後方に充駆――整然と並ぶ三十数脚の机といすを挟んで対峙する。

 イートンが充駆にささやく。

「セーラーさんの槍斧の柄は約二百センチ、こっちのハンマーは百五十センチ。さらに体格もあって射程で劣ります。注意してください」

 充駆としては距離を詰めるしかないが、うかつに詰めれば突かれて終わる。

 どうすれば?――そんなことを考えた時、聞いたことのない声の校内放送が流れた。

「一年一組にて挑戦者決定トーナメント一回戦第一試合、セーラー対イートンが始まりましてございますよ。うひひ」

 さらに重なるように別の声が続ける。

「おうおう。一年六組にて挑戦者決定トーナメント一回戦第二試合、ワンピ対ボレロが始まりやがったぜ。ひゃひゃひゃ」

 充駆は初めて聞く声のアナウンスに考える。

 大会を主催しているのは六名からなる制服評議会。

 音楽室でボレロやイートンが話していた“代表”以外の五人がアナウンスを担当しているらしい。

「充駆さん、来ます」

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