それでも俺はハーレムがいい!

蜜柑の皮

第一章:悪逆皇帝

第1話:異世界転生のやり方

 ハーレム。

 それはかつて俺が夢見た景色。


 それを初めて知ったのは中学生のとき。

 友達から借りたラノベを読んで、『ハーレム』というものを初めて知った。


 初めて知ったと同時に、『ハーレム』というものは俺の憧れにもなった。


 眉目麗しい少女たちに囲われて、何やっても賞賛されて、そんな世界が幸せでないはずがない、と。

 健全な中学生だった俺はそう考えてしまったわけだ。


 とは言え、現代日本でハーレムを作るなんて願い、普通じゃ叶うわけもない。

 金、権力、その他諸あるか、もしくは……ここではない世界に行ければ、の話だが。


 そんなわけで、到底叶うことのない夢を見ながら、俺は高校生まで悶々と生活を送っていた。


 ──送っていた、のだが。




 ■■■■■■




「──不幸にも死した貴方に。今一度チャンスを与えましょう」


「マジかよ……」



 そう言って、白装束で金髪の女性が俺の前で仰々しく手を広げる。

 光り輝く背景に気圧されていた俺は、女性の前で尻もちついて硬直していた。


 周りの風景は青空のみで、足場は雲のようなふわふわした何か。

 まさにあの世、と言わんばかりの景色が周囲に広がっている。


 ドッキリ……とはとても思えない様相に、俺は死んだことを否が応でも分からされる。


 そもそもとして。

 俺には死んだ記憶がある。


 だが……喉元を触ってみるも、そこにはあるべきはずの傷はない。

 不思議がって触っていると手を下ろした女性は口を開く。



「傷はありませんよ。死んでいるのですから」


「な、治した……んすかね?」


「いえ、治したわけではありません。ここにいる時点で肉体と魂は分離し途切れているのです。今の貴方は魂だけの存在。故に、傷はありません」


「……なるほど?」



 よく分からなかったが、とにかくここでは俺の傷はないらしい。

 死んだ、という事実に変わりはないようだが。



「あの……ここって、あの世、なんすかね……?」



 恐る恐る聞いてみると、女性は頷いて俺の元へと近づく。



「そうです。貴方たちが言うところの『あの世』というものです。死してしまったのですから」


「……そう、すか」



 どうにも死んでしまった、という事実を受け入れなければならないらしい。

 だが未だ現実感がない。


 こうして考えて、話すことができるからだろうか。



「本題に移ってもよろしいでしょうか?」


「え、あ……は、はい」



 俺はそそくさと座り直して正座になる。

 いや別に指定された訳では無いが、何となくそうすべきだと思ってしまったからだ。



「三度目になりますが、貴方は死にました。ですが、もう一度だけチャンスを与えましょう」


「チャンス?」


「私の出す願い、それを果たすというのであれば、肉体を再生し、別の世界ではありますが、貴方に蘇らせましょう」


「生き返らす!? そんなことができるのか!?」


「ええ、私は女神……貴方がたが神と呼ぶ存在に等しいものですから」


「それに別の世界って……」



 別の世界……つまり異世界、ということになる。


 元より異世界に行きたい、という願望と、ハーレムを築きたいという願望を抱えていた俺からしてみればそれは願ってもない話だった。


 だが一つだけ、聞き捨てならないことがある。

 この女性……女神の出す願い、とやらがとても気になってしまった。


 俺は興奮を何とか自制して、落ち着きなく座り直す。



「そ、その。願いというのは?」

「今から行く世界にて、『杭』を抜いてきてほしいのです」

「……『杭』?」

「はい。向こうの世界……『異世界ランデグラム』という場所なのですが。その世界に七つ存在する『杭』。それを抜いてきてほしいのです。その後であれば好きに生きてもらっても構いませんので」



『杭』を抜く、か。

 杭とかって聞くと封印みたいなイメージがあるが、なんでそれを抜いてきてほしいんだろうか。


 変なことに加担させられたりするんじゃないか? 


 流石にそれだけは勘弁だ。



「何故そんな事を? その、変なことだけはやりたくないんすけが……」


「変なことではないので大丈夫です。向こうの世界にいる、とある組織がその『杭』を刺したのですが、それのせいで私の干渉力が失せてしまったのです。そうなると、救えるものも救うことができないのです。故に、貴方に抜いてきてもらいたいのですが……」



 なるほど……そういうことならば、やらないわけにもいかないだろう。


 しかし異世界……異世界かぁ。

 もしかすれば、俺のどうしても叶わなかった願い。

『ハーレムを作る』、が叶う可能性もあるぞ。


 ……なんかそう考えたら無性にワクワクしてきたな。



「まぁ、そういうことならば」


「よかった……」



 安堵したような顔つきで息をつくと、振り返って少し離れたところで再度手を広げる。


 あのポーズは一体なんなんだろう……と思ったのも束の間。

 突然空から何か落ちてきたかと思うと、俺の前にそれらは突き刺さる。


 一つは仰々しくも黒く輝く二振りの剣


 眼の前には確かに、武器が突き刺さっていた。

 なんと言ったらいいだろうか……とても触りたいとは思えない。


 なんだか触ってしまえば最後、取り返しのつかないことになりそうで……言葉にし難いが、ともかく『嫌』だった。


 と、前方に刺さる武器を見て、女神は俺に向けて口を開く。



「行く先は知らぬ世界。故に貴方に力を与えましょう」


「力……?」


「既に貴方にはその力が備わっています」


「で、その力って言うのは……?」


「世界に名を残した英雄たちの遺物に触れることで、その遺物に宿る残留思念から英霊を呼び出す力です。とは言っても、向こうの英霊ですので、貴方からしてみれば全く知らない人ですけども」


「英霊を、呼び出す力……」


「使役、とまでは行きませんが、協力ならばしてくれるはずです。少なくとも、貴方には危害を加えることはできないようになっていますので」



 つまり過去にいた英雄たちを現世に蘇らせて一緒に戦ってもらう、と。

 しかも俺にいた世界の英雄ではなく、異世界での英霊たちに。


 この力……間違いなく、俺の夢を叶えるための力にもなる。

 なんせ使役とまでは行かないにしても、仲間にすることができるんだぞ。


 と、言う事はだ。

 ……ハーレム作れる。


 やり方は至極簡単。

 女性の英雄が残した遺品を見つけるだけ。


 いやまぁ……自分でも最低だとは思う。

 思うけど、こうでもしないと俺の願いは叶わないだろう、多分。


 向こうでハーレムを築けるか、と聞かれれば「No」と言えてしまうし。


 だからこそもっと確実に、かつ、分かりやすい方法で。


 ……まぁ、ハーレムはともかく。

 この力があれば女神の願いを叶えるのも容易いだろう。

 なんせ『杭を抜く』だけだからな。


 その後は好きにしてもらっていいとも言っている。


 もはや俺の決意は固まったも同然だった。



「それで力を使うにはどうすれば?」


「遺物に触れればいいのです。そうすればその物に宿る残留思念を読み取ることができるはずです」


「残留思念を読み取る、か……」


「そしてここにある武器は、とある英雄の持ってた武器です。さぁ、触れてみてください」



 言われるがままに武器に触れた瞬間。



「う、ぅあッ……!? な、なん──」



 その瞬間、俺の頭に流れ込んでくるいくつもの情報たち。

 あまりの情報量に圧倒された俺は、思わず触れていた手を離し後退る。


 気づけば俺の手は緊張で震え、尻もちをついていた。



「こ、これ、は……」



 俺が見たもの。

 それはあまりにも恐ろしい光景の数々。


 この武器を持っていた英雄がどのような人生を歩んだのか。

 断片的ながらもはっきりと分かる景色だった。


 その上で、俺は女神の方を見る。



「この武器を持っていた英雄、ってのは……」


「見た通りです。覇道を歩まんとしたが故に、悪逆と成り果て、世を統べんとした邪智暴虐なる非道の。それが──」


「──それが、アリシスタ・レヴェリノ。随分と酷い物言いをするものだな。女神という存在は」



 突然後ろから聞こえた声に、俺は思わず振り返る。


 そこにいたのは、白銀の髪に紅玉のような目、小柄で華奢ながらも力強い手足。

 そして言葉にし難いほど禍々しい何かを感じさせる美少女がそこに立っていた。


 そして目を合わせて気づいた、彼女の瞳孔が細く長いことに。



「ふぅん。貴様か、私を呼んだのは」


「……あ、俺か。俺が呼んだ……ってことになるのか」


「煮え切らん物言いをする。まぁ、呼ばれたからには働かさせてもらうぞ」



 と言って手を差し出した。

 今さっき聞いた情報、断片的に見た記憶よりも、いくらか物腰が柔らかい。


 ……ハーレムを作る、って願いからはかなり遠のいたような気はするが。


 俺は少し安心して手を差し出す……と、同時に、奴が俺の手を付け根を掴んで引っ張ってくる。


 俺は咄嗟のことで行動できず、思いっきり体を引き寄せられ、そのまま背負投をされてしまった。



「んなあッ……!? ぐふッ!?」



 背中から地面に叩きつけられ、思わず声が漏れるも何かを思う間もなく、奴は俺の上に乗っていつの間にか手に持っていた剣を首に当てていた。



「警戒心の欠片もなしか。私がしたことを知った上で手を差し出す阿呆が」


「な、何を……!?」


「見れば分かるだろう。試しただけだ」


「見て分かるか!?」



 前言撤回。

 全くもって上手くやれる自信がない。


 俺が押し退けると、意外にもすんなりと退いてくれる。

 急いで立ち上がった俺は、近くに立つ奴を指差しながら、女神に向けて言い放った。



「こ、これとやって行けって言うんすか!?」


「呼び出してしまったものは仕方ないですからね」


「し、仕方ないって……そん──」



 抗議しようとするも、突然パッと周りの景色がなる。

 見えるのは隣に立つ少女皇帝と、その彼女の持つものである二振りの剣だけだった。


 そして何処からともなく女神の声が響いてくる。



「それでは、あとは任せましたよ。七つの『杭』を抜いた暁には、褒美を差し上げますので」


「ちょっと!? クレームは受け付けてませんってか!?」


 返事は返ってこない。

 どうやら向こうには声が届かないらしい。


 クレームが届かないことに、はぁ……と溜め息を吐いた。


 後ろに立つ少女皇帝に意見を求めようと振り返ったとき。

 突然、足元にあったはずの地面の感覚がなくなる。


 下を見てみれば、そこにはぽっかりと丸い穴が一つ空いていた。

 青い空に緑の平原、数々の景色が見える。


 が、それと同時に俺たちの体は、その緑の平原に向かって落ちていく。



「え、落ちるの? マジ?」



 落ちる体、風を切る音、そして隣で剣を鞘に納める音。


 いくつもの音を聞きながら、青ざめる俺は地面に向けて落ちていく。



「うそうそうそうそうそ!? マジで言ってんの!? 生き返らせていきなり落とすか、普通!? ここ空だぞ!?」


「騒がしいぞ。少しぐらい落ち着け」


「落ち着けだと!? 落ち着けるか!? なんでお前は落ち着いてられるんだよ!? 落ちてるんだぞ、俺たち!!」


「貴様はオチでもつけたいのか?」


「こんなんでオチがつくかぁあああああッ!!!」



 地面に向けてとてつもない速度で落ちていく。

 何もできない俺は風を切る中で叫ぶのに精一杯だ。


 どうにかしようともがくも、全て意味をなさない。

 助けての声も、どこにも届かない。


 ……いや、一応聞いてるやつはいる。


 俺はその微かな希望に、必死の懇願を決め込んだ。



「頼むから、助けて!? 助けてって! 助けてください!!」


「はぁあああ……仕方あるまいか。ここで貴様に死なれでもすれば私も消えかねん。助けてやる、助けてやるから私にしがみつけ」


「おう!」


「早いな……」



 言われると同時に彼女にしがみつく。

 すると彼女は背中に納めた二振りの剣の内、一本を抜いて取り出す。



「ど、どうするつもりなんで……?」


「地面と接着する瞬間に剣を放ち威力を相殺する」


「……それ下手すれば、俺死にません?」


「安心しろ。貴様には…………まぁ、何とかしてやる」


「これ以上、ないくらいに溜め込んだな!? 不安しかないんだが!?」


「助かりたければ黙ってろ」


「はい」



 せっかく得た命。

 どうして助かりたい俺は、一瞬にして黙る。


 そんなこんなで言い合いをしている間にも、地面はすぐそこまで迫ってきていた。


 あともう少しでぶつかる……と言ったところで、両手で剣を握った彼女が体を捻って剣を構える。


 そして大きく振りかぶった剣を、目前に迫る地面に向けて声を張り上げ振り降ろした。



「行くぞ……『竜覇撃滅剣ドラゴライク・ストライク』ッッ!!!」



 地面に衝突する斬撃、辺りに響き渡る轟音。


 俺はそれを聞き届け、助かったかどうかを知る間もなく、意識を暗闇へと落としたのだった。

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