第28話 邪魔者
周囲に霊獣でも居るのか?
「すぐに分かる。期限は二日やろう。お前なら余裕だろう?」
俺は疑問符を浮かべるも、とりあえず尻尾を顕現させる。
尻尾に霊気を。
より鋭く、強く。
第一修行のお陰か、スムーズに纏わせることができた。
俺は助走をつけると、思い切り尻尾を木に叩きつけた。
深々と木に刺さる音が響く。
やはり尻尾は威力が違う。
足の時よりはるかに深い跡が残る。
いける!
だが、そう思うと同時に上空から羽音が聞こえた。
え?
上空を見ると、怒れる青い蜂が凄まじい数でこちらに襲ってきた。
しかも俺の知っている蜂より二回りくらい大きい。
「あれが邪魔者かよ!?」
俺は命の危機を感じ、必死でその場から逃げ去った。
数十分後、なんとか大木の元に戻るもまだぶんぶんと大木の周りを飛んでいる。
これ……いちいち逃げていたらめちゃめちゃ時間かかりそうなんだけど。
あの蜂見たことないけど、刺されながらでもした方がいいのか?
「因みにだが、刺されながら切ろうとは思わないことだ。ブルー・ビーは大量に刺されて毎年多くの死者を出す、死神と言われる蜂だ」
そんな蜂の巣が付いている木を切れなんて言わないで欲しいよ。
上がっていたテンションが一気に萎む。
「どうする?」
師匠が好奇心を隠せない表情でこちらを見ている。
俺がどう対処するのか楽しんでみているようだ。
「蜂を煙で追い払うのは……」
「駄目に決まっているだろう? それも手を出したとみなす」
畜生。
となると、やはり体を守りながら木を切るということになる。
体中を霊気で纏って針を刺さらないようにして、木を切るしかない。
これは中々に霊気の消費が重そうだな。
俺は全身に霊気を纏わせて、再び木に特攻する。
「これでも……くらえ!」
再び渾身の一撃。
尻尾が深々と木に刺さる。
周囲が再び蜂で埋まっていく。
うう……かなり気持ち悪い光景だ。
気にせずに再び尻尾を木に叩きこむ。
だが、それを待たずに俺の体を蜂が埋め尽くす。
蜂の針が俺を襲う。
だが、霊気で覆った俺を貫くことはできないようだ。
よし。このままいけば!
俺は何度も尻尾を木に叩きこむ。
「痛っ!」
右太ももに激痛が走る。
その痛みで、体を覆っていた霊気がぶれる。
駄目だ。
俺は再び霊気を先ほどより多めに全身に纏う。
これなら安心だけど……霊気の消費量が凄まじい。
そして、少しでもどこか薄くなるとそのに蜂の針が刺さる。
「む……無理だ!」
俺は尻尾を巻いて逃げ出した。
◇◇◇
クロエは逃げ出すリオルを見て呟く。
「ふっ。やっぱり厳しいか」
(実は、これは第三修行だからな)
クロエはリオルの才覚を感じ、第二修行を飛ばした。
(この修行は実践を想定したものだ。実践において、敵は常に襲い掛かって来る。敵が複数の場合、全身を獣化し、その体を霊気で覆い戦うことになる。が、それは霊気の消費量が跳ね上がる。とはいえ、これができない者は長生きできない)
クロエはこの修行で、リオルに最低限の防御力を得て欲しかった。
(一人で生き残る者に必要なのは圧倒的な攻撃力より、死なないための高い防御力。既に奴も分かっているだろう。この修行に必要なのは、蜂の攻撃から守る防御力、そして尻尾の強化も同時に行う技術)
クロエは何もヒントを与えない。
リオルの発想力も試したいからだ。
クロエは食材を探すために、その場を去った。
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