第22話 気が変わった

「ネロ、大丈夫だ。地獄でも二人で頑張って生きような?」


 俺はネロの頭を撫でる。


「ガウー」


 少し心配そうなネロ。

 俺がしっかりしないとな。

 それにしても俺たちの生活圏とは違う森だ。


 知らない霊獣が出るかもしれないな。

 警戒しながら歩いていると、前方の木々に糸が張り巡らされているのが見えた。


「あれは……なんだ?」


 周囲を見渡すと、所々に糸が張られている。

 嫌な予感がする。


「ネロ、逃げるぞ!」


「ガウッ!」


 ネロと共に糸が張られている区域から遠ざかろうと走る。

 だが、既に遅かったらしい。

 前方に糸が降って来て、道を塞がれた。


「くそっ!」


 見渡すと、周りから大量の蜘蛛が現れる。

 目が四つ。

 全長二ユードはある大型の蜘蛛だ。禍々しい紫と黒のシルエットから危険生物であることが伝わってくる。


「気持ち悪い……。それにしても、ここが地獄だって思い出させてくれるな」


 俺は尻尾を生み出すと、目の前の蜘蛛に襲い掛かった。


 ◇◇◇


「早速襲われているのか」


 クロエはリオルの霊気を感じ取る。

 だが、中途半端に助けることに意味があるのか考える。


「ちっ!」


 クロエは立ち上がると、リオルの元へ向かった。

 そこでエルティアスパイダーと戦うリオルの姿を見る。


(まだ十一歳と聞いたが、やるじゃないか。森人族もりびとぞくなのに……⁉)


 クロエはそこで尻尾を使い巧みに戦うリオルに気付く。


「あの尻尾は……」


 尻尾を見たクロエが、驚愕の声をあげる。

 クロエは遠くから、静かに見守っていた。

 リオルはなんとかエルティアスパイダーに囲まれながらも互角に戦う。

 だが、そんな時他の個体より明らかに一回り以上大きなエルティアスパイダーの長が現れて戦況が変わる。


「えっ……⁉」


 突然の大型霊獣の登場にリオルが固まった。


「ここまでだな」


 クロエはそう言うと、颯爽とエルティアスパイダーの長の前に現れ両断した。

 突然の出来事に、リオルはただ腰を抜かす。


「詰めが甘い」


 クロエは冷めた表情でそういった。


 ◇◇◇


 リオルはただ茫然とクロエを見た。

 突如現れた大型霊獣に思考が止まっていた時に、クロエが一瞬で倒してしまったからだ。


「まだ子供なのに中々やるじゃないか」


「どうも」


 あんたの方が明らかに強いだろうとは言わない。

 どうして助けに来てくれたんだろうか?

 そう思っていると、クロエが口を開く。


「気が変わった。やっぱり弟子にしてやる」


 一度断ったのにどうして?

 そう尋ねたかったが、俺は我慢した。それで気が変わったら困るからだ。


「……ありがとうございます」


「ふふ……なぜ急に? って顔しているな。気まぐれさ。少しは骨がありそうなんでな」


 さっきの戦闘を見て、最低限の御眼鏡にかなったということだろうか。


「いえ、何でも助かります。俺を弟子にしてください」


 俺は再度頭を下げる。


「お前、現主げんしゅか?」


 げんしゅ?

 なんだそれは?


「げんしゅ?」


「なんだ、そんなことも知らないのか。仕方ない、一から教えるか。どの道修行には様々な知識が必要になる」


「ただの農民の子ですよ、俺は……」


「これは知っているな?」


 そう言ってクロエさんは右手を差し出して、そこに霊気を集中させた。

 肉眼でもはっきり見えるくらいの霊気が右手一本に集中している。


「霊気ですね?」


「その通り。あらゆる生物は霊気を宿し、生きている。だが、殆どの者はそれを使うことはないがな。戦闘において、霊気の扱いは不可欠。それは分かるだろう?」


「分かります」


 霊気を少しだが、扱えたから今まで生きられたんだ。


「霊術についてはまた今度、細かく教えよう。まずは私の住処に来い」


 霊術?

 知らない言葉ばかりだ。

 俺は本当に何も知らないんだと痛感する。

 けど知らなければいけない。

 俺はクロエさんについていった。

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伝説の霊獣達が住まう【生存率0%】の無人島に捨てられた少年はいかにして最強に至ったか 藤原みけ@復讐を誓う転生陰陽師1巻発売中 @fujiwaramike

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