第16話 襲撃

 それからミラさんはプレゼントした花冠をずっと首につけたままだった。

 元が花なので、少しずつ枯れてきている。


「ミラさん、もう取る? 枯れてきているよ?」


「ガウッ!」


 俺が花冠に手を伸ばすと、吠えられた。

 どうやらまだつけてくれるらしい。

 ミラさんはとても綺麗な黒い毛をしている美豹であるため、枯れた花冠が見劣りしている。


「う~ん、新しいのあげるか」


 俺は住処の洞穴から出ると花の咲いている場所を目指す。


「ガウーー」


 ネロが暇なのかついて来た。


「一緒に行くか? 花を一緒に選んでくれ」


「ガウッ!」


 選ぶ気満々のようだ。

 前採った場所で花を選んでいると、似たような色合いになる。

 少し場所を変えるか。

 俺は前回と違う花を探しに方向を変える。


「ガウッガウッ!」


 すると、ネロが行く先で白い花を見つけた。

 黒いミラさんと対照的で、ミラさんに合うだろう。

 その白い花をいっぱい取って花冠を編む。


「ガウ~?」


 ネロがその作業を不思議そうに見ている。

 そんなネロを撫でながら、花冠を完成させた。


「そろそろ帰ろうか」


 そう言って立ち上がった時、一陣の風が吹いた。

 俺は忘れてたんだ。

 ミラさんの近くに居たことで、この島が危険な場所であることを。


 自分はこの島の食物連鎖の中でも最底辺だと言うことを。

 俺を影が覆う。

 ふと顔を上げると、美しいエメラルドのような鱗を纏った巨大な龍が巨大な翼を広げて、降りて来た。

 風を纏ったエメラルド色の龍。


 全長は十ユードを優に超え、巨大な翼に鋭い牙。輝く二本の角に強靭な足。自分とは全く違う長く鍛え抜かれた尻尾は凄まじい威圧感と、恐怖を纏っている。

 真っ赤な瞳がこちらを見つめていた。


 え?


 死。

 見ただけで死を感じされられた。

 逃げ……駄目だ。体が……動かない!

 龍は俺に全く興味はなさそうに、蠅でも潰すように俺に向かって手を伸ばした。


 ネロだけでも逃がしたいと思ったけど、恐怖で声が出なかった。


「あ……ああ……」


 乾いた声と共に、目前まで手が迫る。

 その瞬間、黒い何かが背後から流星のように龍に突進した。

 ミラさんがその牙で思い切り龍に食らいついたのだ。


「ミラさん!」


 俺は思わず大声を上げる。


「ガアアアアアアアア!」


 龍が悲鳴を上げる。

 ミラさんはそのまま龍を地面に叩きつけた。

 そのままミラさんはその爪を振るう。


 だが、龍もやられっぱなしではなかった。

 口から凄まじい咆哮を放つ。

 その威力は凄まじく、ミラさんが切り刻まれ宙に舞う。


 ミラさんは一回転してそのまま着地すると、すぐさま飛び掛かる。

 龍はミラさんの爪での一撃を真っ向から受け止める。

 その攻防の余波だけで、森が、地形が変わる。


 人とは違うと感じさせるこの島の生態系の頂点の争いだった。

 だけど、ミラさんはならきっと……。

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