第3話 サバイバルの基本は水
しばらく泣いた後に、俺はその場から動くのを止めた。
二人がきっと助けに来てくれると考えたからだ。
だけど、一向に誰一人来る気配がない。
俺は腹が鳴っていることに気付く。
そう言えば朝から何も食べていなかった。
喉も乾いたし、いくら辛くても腹は減るようだ。
もしかして両親にもなにかあったのかもしれない。
それなら二人を頼りにするのは危険だ。
まずは水を探そう。
じゃないと体が持たない。
俺は探索に恐怖を覚えながらも、少しずつ進む。
すると目の前に巨大な鹿が居た。
全長五ユードはありそうな巨大な鹿。
一目みるだけで分かる。奴には勝てないと。
立派な角は天に向かって悠々と伸びており、俺なんて一突きで殺せそうだった。
俺はばれる前にひっそりと進路を変える。
「霊獣だらけだ……」
ここの森は霊獣が多い。
そう考え事をしていると、背後から何かが通る音がした。
それと同時に、地面に大きめの石が突き刺さる。
「え?」
怯えながら振り向くと、物をみるような冷たい目でこちらを見る一匹の赤い猿の霊獣が居た。
奴が俺に石を投げたのだ。
あれを頭部に喰らっていたら死んでいた。
そう思うと恐怖で、吐き気に襲われる。
俺は生き残るために再び必死で逃げた。
しばらく走った後、俺は近くの木に腰を下ろした。
「み……ず……」
疲れた。喉が渇いてもう動けない。
このまま死ぬんだろうか。
ネズミに全身齧られて死ぬのかな。
意識が朦朧としてきて、俺は地面に倒れ込む。
こんな森で、水なんて都合よく見つかる訳ないんだ。
諦めて目を瞑ると、森からいろんな音が聞こえる。
森から聞こえるのは殆どが霊獣の鳴き声だ。
だが、滝のような水が落ちる音が混じっているような気がした。
「え?」
疲れているから幻聴かもしれないと思いつつ、体を起こし周囲を見渡すと滝が見えた。
「やった……!」
俺は警戒しながらも、弾む心を抑えきれずに滝めがけて走った。
滝の下まで辿り着くと、そこには小さな湖が広がっていた。
初めて見つけた水に、俺は笑顔を隠せない。
だが、この湖にも欠点があった。
霊獣だらけなのだ。
ぱっと見るだけで猪、狼、カバの霊獣が見える。
狼の群れなんて、十頭単位で水を飲んでいる。
一匹一回り大きい狼も見える。
俺の望んでいた人の姿はなかった。
足跡を見ても、あるのは霊獣だけだ。
「きっと、人は他の湖で水を汲んでいるんだろう」
俺はそう呟くと、霊獣達がどくのを待った。
喉はからからで今すぐに飛びつきたい。
けど、痛む左腕が自分を戒めた。
自分は弱いのだと。
狼の群れが姿を消した後、ようやく俺は水を飲んだ。
焦って最初喉に詰まらせたが、全身に水が染みわたる。
「ゲホッ! ゲホッ! 美味い!」
生まれてから今までで一番美味しい水だ。
これほど辛い思いをしていても、俺は水を飲めただけで嬉しかった。
傷ついた左手を綺麗な水で洗う。
洗った後は、着ていた上着を布として巻いた。他にできることもない。
酷くなったらどうしよう。
不安に襲われるが、それを考えていても仕方ない。
「この森がどこかなんて分からないけど、きっと歩いても数日の距離だ。それまでなんとか生き延びよう」
寝ている間に運べる距離なんて、たかが知れている。
水は手に入れた。後は食べ物と寝床だ!
一番は狩りなんだろうけど、あのネズミに負けた自分に勝てるだろうか
おとなしく採集しよう。
湖を離れ、食べられそうな植物を探す。
色々植物はあるが何が食べられるかなんてわかる訳がない。
果物はないのか?
結局数時間かけて見つけたのは食べられるかも分からない木の実とキノコだけである。
食べて死ぬか、食べずに死ぬか。
俺は食べる方に賭ける。
キノコを齧る。全然美味しくなく、ぴりっと少しだけ痺れを感じた。
これ食べて大丈夫なんだろうか?
けど、食べないと……。
もそもそと食べる。
体の不調は十分くらい経ってから起こった。
「げええっ!」
俺は吐いた。
やはり駄目だったらしい。
人って何日食料なしに生きられるのだろうか。
そんなこと考えたこともなかった。
寝床を探そう。
そろそろ日が暮れる。
滝のあった岩壁を沿うように移動する。
洞窟を期待してのことだ。
だが、一向に見つからない。
日が暮れてきて不安に襲われ始めた頃ようやく小さな洞窟を見つけた。
「やった! ここで寝よう!」
同時に、何か居たらどうしようという考えがよぎった。
中に狼や猿が居たら……俺は殺されるんじゃないか?
光も何もない。
俺は入って大丈夫なのか?
不安になりながらも、洞窟の中を覗く。
音は特にしない。
洞窟を進むも、霊獣は居ないようだ。
俺は固い地面に横たわる。
少し落ち着いたら、暗闇もあって恐怖に襲われる。
「早く村に帰りたい……」
泣きながら、気絶するように眠りについた。
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