第2話 これくらいなら
ただ当てもなく進むも、人っ子一人会うことはない。
草木が突然途切れた場所に出る。
草木が潰された跡がまるで道のように残っている。
人が作ったのかと思ったけど、すぐにその考えが違うことに気付く。
「蛇が……通った跡?」
蛇のお腹が地面を擦ったような跡が残っており、蛇の鱗が落ちている
だがおかしいのはその大きさだった。
明らかに大きすぎる。
この蛇の胴体の太さは、軽くニユードを超えている。
人どころかなんでも一飲みできそうである。
俺は既に感じていた。
ここはただの森じゃないんじゃないか、という不安を。
だが、進まないと何も分からない。
蛇の作った道を無視してやみくもに進む。
「全然村が見当たらないな。逆方向なのか?」
自分を鼓舞する意味もあり、声に出す。
すると突然目の前の草が揺れた。
父さんが助けに来てくれたのか⁉
そう思って目を輝かせるも、草をかき分けて現れたのは一匹のでかいネズミだった。
これくらいなら、と思い俺は落ちていた木の枝を握る。
今まで剣なんて一度も握ったことはない。鍬くらいだ。
こんなことなら、剣術の一つでも習っておけば良かった。
「来るなら来いッ!」
そう叫ぶも、ネズミが襲ってくる気配はない。
戦う気はないのか?
と思い始めた瞬間、弾かれたような速度でネズミは俺に襲い掛かってきた。
「うわああ!」
咄嗟に両手で体を守るが、ネズミの鋭い前歯は体を庇った俺の左手に深々と突き刺さる。
歯は肉を突き破り、手からは血がどくどくと流れ始めた。
「ああああああああああああああああああ!」
俺はただ叫ぶことしかできなかった。
痛い! 痛い! 痛い! 痛い!
痛い、以外何も考えられなかった。
だが、叫ぶ間にも前歯は俺の腕の奥深くに刺さっていく。
殺されるッ!
そう思った俺はただ必死に、落とした木の枝を右手で握りネズミを叩く。
何度も叩いたうちの一発がネズミの目に当たる。
「ギイッ⁉」
その衝撃でネズミの噛みつきが弱まる。
俺はただ必死で、左手からネズミを引きはがすと逃げた。
痛い。痛い。痛い。
左手からは血が流れている。
けど、気にしている場合ではない。
顔は恐怖で引きつり、目は涙で溢れている。
ただ必死で逃げた。
生きるために。
「死にたくない……死にたくない!」
ただ、呪いのように呟きながら。
はっきりと分からないが、しばらく走り続けて体が走れないと悲鳴を上げてようやく俺は地面に倒れ込む。
「ここはどこなんだよ! 父さん……母さん……助けてよ」
俺はそう言いながら泣いた。
情けない自分を呪うように。
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