33. だって、思春期だもの

 移動した後、デパート。


 エントランスに堂々と君臨している巨大モニターには、昨年のアカツキ花火が映っている。

 デパート内の掲示板や壁、垂れ幕や電掲示板に至るまでもアカツキ花火でいっぱいだ。


「やっぱり、アカツキ花火の広告が多いなぁ」

「こっちも花火―。あっちも」

「あたし、アカツキ花火が近づいてきた!って感じで好きかなー」


 ぼーっと皆で巨大モニターの映像を見ていると、リポーターのお姉さんが映った。


『こんにちは、今日はアカツキ花火の関係者の方にインタビューしていこうと思います!』


 カメラがスライドし、現れる初老の男性。


『こちら、アカツキ花火委員会代表の長岡さんです。こんにちは!』

『はぃ、こんにちはぁ』

『それでは早速、長岡さん!今年のアカツキ花火の見どころは何でしょうか!』


 すると初老の男性は得意げな表情で、重厚な箱を取り出す。

 箱のフタを開けると同時、その中身の眩い光がカメラに映った。


『なんと言ってもこれぇ、アルタイルの涙だねぇ!』

『えぇ⁉すごい大きさですね、このクリスタル!』


 テロップで「アルタイルの涙」と呼ばれた巨大クリスタルの説明が入る。


 ……どうやらアカツキ町のニュータウン開発中に、偶然発見されたモノらしい。


『これは日本最大級ですからねぇ。是非ともアカツキ花火に縁起物として、イベントステージで展示しようかと思ってましてねぇ。今年のアカツキ花火はイベントステージも盛り上がりますよぉ』


 僕は反射的に、サッと藤宮さんの目を両手で塞いで隠す。

 なんで今年のアカツキ花火に限って、盗んでくださいってお宝が用意されてるんだ。


「ねぇ柏くん、今の見た⁉」


 僕の両手を、藤宮さんが弾き上げる。いや力つっよ。 


 サファイヤに負けず劣らずに輝かせた藤宮さんが、ガっと僕に顔を近づける。

 いや近い近い近い。


「あれにしよ、怪盗団のターゲット!」

「勘弁してよ藤宮さん」


 窃盗である。いよいよ犯罪者だ僕は。


 僕の肩を、藤宮さんがガっと掴んで。


「だーいじょぶだって!実際に盗る訳じゃないし、直前であたしが捕まえるんだから!」


 罪状が窃盗から窃盗未遂になっただけで、何も大丈夫じゃない。


「仮面とか付けて正体隠した柏くんをあたしが可憐に捕まえたら、警察とか偉い大人の人とか駆けつける前に柏くん担いでサッと撤退するから!」


 藤宮さんの表情が明るくなる度、僕の未来が暗くなっていく。


『では夜のアカツキ花火まで、お次のスポットに行きましょう!』


 リポーターのお姉さんが「えいっ!」とジャンプすると、映像が切り替わった。


『ということで、こちらアカツキ市民プールにお邪魔しています!』


 映し出されるリポーターのお姉さんの水着姿。

 ほう、実に興味深い映像になってきた。


「って、あれ」


 途端に視界が真っ暗になる。目隠しされているらしい。


「ちょ……あれ、楪さん?」


 位置的に、僕の真後ろに立っていたのは楪の筈だ。

 藤宮さんは目の前に立ってたし、茅野センパイだと背伸びしても手が届かない。


「………いえ、巨大スクリーンのブルーライトは目に毒かと思いまして」


 ふむ、確かによくないかもブルーライト。とはいえ、僕も健全な男子高校生だ。


 決してお姉さんの水着姿に興味がある訳ではないが、市民プールの様子が気になる。リポーターのお姉さんの水着姿とか、もしかしたら視界に入ってしまうかもしれないが、それもまた致し方なない。


(……この角度ならっ!)


 楪の指の隙間から覗き込む形で、僕はそっと顔を動かした。

 目隠ししていた楪の指が優しく眼球に触れる。その場で激しくのたうち回る僕。

 あかん。肉眼に指はあかん。


「おー。こーたろ、げんきー」


 茅野センパイ、僕のこと蝉か何かだと思ってませんか?

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