17. 女子高生3人だけで
すっかり夜の始まりに浸った商店街は、会社帰りのサラリーマンや主婦で賑わっている。
そんな中を、3人の女子高生たちが並んで歩く。
出雲崎 楪と、藤宮・シャーロット・有栖。 小さく隣に茅野 響である。
「あの、私は別に一人でも帰れますから……」
「いーの! 柏くんがお願いって言ったんだから、お礼は柏くんから沢山貰うから!」
「もらうからー」
藤宮は幸太郎が頼んだ通り、同じ乗車駅まで楪と帰路を共にすることにした。
茅野が同行しているのは、駅前のお惣菜屋まで店長の夕ご飯を買いに行くためである。
ちなみに茅野は、別に幸太郎から頼まれていない。
「にしても柏くん、すっかり店長さんに気に入られてたねー」
「おにぃ、こんじょーある男子、すきだから」
おかげで幸太郎は今日、バイトの契約書類の記入や接客の指導で居残でバイトである。
「おにぃのおゆーはん、なににしよーかなー」
「あ、コロッケとかどうですか!」
茅野が、目の前のお肉屋さんを小さな手で指さす。
「ふじみやこーはい。 そこにおみせ、みえたからでしょ」
「えぇ!? かやちゃんセンパイ名探偵!?」
お団子を上下に揺らし、藤宮がきゃっきゃと軽く飛び跳ねる。
「食べたーい! あたし、かやちゃんセンパイと出雲崎さんと買い食いしたーい!」
「だめー。 ふじみやこーはい、お家にゆーはんあるでしょ」
「コロッケは別腹でーす! 食べたい食べたーい!」
体力無限と言わんばかりに、じゃれ合う女子高生二人組。
その数歩後ろで、出雲崎 楪は、自己嫌悪の波に顔を伏せていた。
(また、やってしまった)
幸太郎の仕草と、言葉が楪の脳裏に何度もフラッシュバックする。
次第にそれは、中学時代の教室の記憶と重なって。
(……香ばしいジャガイモの匂い?)
ようやく楪が顔を上げると、そこには藤宮と茅野が笑顔で紙袋を差し出していた。
「はい、これ出雲崎さんのぶんっ!」
「ぶんー」
何の気なしに寄った公園で、3人纏まってベンチに座る。
「おー、あったかい。 おいしそー」
「うひゃー! これですよこれ! お肉屋さんのコロッケが一番おいしいんだからもー!」
楪にとって3人で座るにはベンチは少し窮屈に感じたが、藤宮と茅野が楽しそうなのでそのままにした。
藤宮に手渡された紙袋から、楪もまたコロッケを取り出す。
「いただきます」
ほのかに湯気の上がるコロッケは、口に入れた瞬間にジャガイモの優しい風味が香る。
「あ、おいしい」
自覚なく口から漏れた言葉に、出雲崎 楪は目を丸くした。
「んもぐ……んぐ、そういえば出雲崎さんって、去年とかはドラマとかテレビで出たよね?」
「……そうですね。 ちょうど一年前くらいでしょうか」
「でてたんだー」
茅野の興味は、楪の女優の話題よりも手元のコロッケの方が強いらしい。
小型動物よろしく口一杯に頬張って、もっちゃもっちゃと噛んでいる。
「そういえば最近テレビで見ないけど、出雲崎さんはもうテレビとかは出ないの?」
ほえー、と口端にジャガイモを付けた藤宮。
こんなに悪意なくこの質問をぶつけられた事は、楪にとって初めてだった。
「そうですね。 もう、芸能界も引退しましたから」
子供の質問に答えるように、優しく語る楪。
まだ一年しか経っていないのに。 もう、ずっと前の事の様に思えていた。
「……そういえば……これは芸能界にいた、ある女の子の友達の話なんですけど」
持ったコロッケの湯気を目で追って、楪が薄く星の輝く空を見上げる。
そう遠くない。 出雲崎 楪と、柏 幸太郎が出会った季節を思い出していた。
「その友達、両親が有名な芸能プロダクションを経営してるんです」
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