第19話 場面緘黙症が教えてくれた「強さ」 - Aさんの言葉
Aさんがこれまで話してくれた言葉の中で、特に印象的だったのは、「話せないことが私を弱くしているわけじゃない」という言葉でした。場面緘黙症を抱えながらも、自分を受け入れ、前を向く彼女の姿勢には、私自身も多くの勇気をもらいました。
今回は、Aさんが場面緘黙症を通じて学んだ「強さ」について、彼女の言葉を中心に振り返ってみたいと思います。
「自分を知ることが強さになる」
Aさんがまず気づいたのは、「話せない」という特性を無視するのではなく、しっかりと向き合うことの重要性でした。
「話せないことは、ずっと自分を縛る鎖だと思っていた。でも、そこから逃げようとするんじゃなくて、その鎖がどんなものかを知ることで、少しずつ軽くなるんだと気づいた」と彼女は言います。
話せない自分を否定せず、受け入れることで、「自分はどうすれば楽になれるのか」「どんな環境でなら安心できるのか」を考えるようになりました。その過程で、彼女は自分を守る方法を見つけていったのです。
「自分のペースで進むこと」
彼女が学んだもう一つのことは、「他人と比べない」という姿勢でした。学校や職場では、どうしても周囲と比べられる機会が多くなります。自分だけが話せないことで劣等感を抱えることもあったそうですが、彼女は次第に「他人と同じスピードで進む必要はない」と考えるようになりました。
「私にとっては、小さな一歩でも、それが大きな前進だって気づけたのが大きかった」と彼女は言います。たとえ話すことができなくても、自分なりの方法で進んでいけばいいという考え方が、彼女を支えていました。
「話せないことで得た強さ」
Aさんは、話せないことで失ったものが多かったと同時に、「得たもの」もあると言います。それは、「誰かの気持ちを理解しようとする力」でした。
「自分が話せない分、相手の表情や仕草、声のトーンから気持ちを読み取ろうとしてきた。それが、私の強みになっている気がする」と彼女は語ります。場面緘黙症を通じて培われたその力は、彼女が人とのつながりを深める上で、大きな助けになっているのだそうです。
「強さとは、自分を守ること」
彼女が最後に教えてくれたのは、「強さ」とは無理に克服しようとすることではなく、自分を守ることだということです。
「場面緘黙症を完全に克服することがゴールではない。自分が安心して生きられる環境を見つけたり、自分を受け入れてくれる人を探すことが、本当の意味での強さだと思う」と彼女は言います。
自分を否定するのではなく、自分を大切にする。それこそが、彼女が場面緘黙症とともに歩んできた中で見つけた「強さ」の本質でした。
Aさんの言葉が教えてくれたこと
彼女の言葉を通じて、私もまた「強さ」について考えさせられました。私たちは、何かを克服することや、他人と同じようになることを「強さ」と捉えがちです。しかし、Aさんの姿は、それだけが強さではないと教えてくれます。
むしろ、自分の弱さを受け入れ、それに合った生き方を選ぶこと。自分を守りながら進むこと。それが、本当の強さなのではないでしょうか。
最後に
場面緘黙症は、多くの困難を伴う障害です。しかし、その中でもAさんは、自分の特性を受け入れ、強さを見つけ、成長してきました。彼女の姿は、場面緘黙症を抱える人だけでなく、さまざまな困難に直面しているすべての人にとって、希望の光となるでしょう。
次回は、いよいよこのエッセイの最終話です。場面緘黙症を通じて私が感じたこと、そして未来への希望についてお話ししたいと思います。
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