第18話 自分の居場所を見つける - 信頼関係の築き方

場面緘黙症を抱える人たちにとって、安心できる「居場所」を見つけることは、生きる上でとても重要なことです。Aさんも、話せない自分を受け入れてくれる環境や人々との出会いによって、自分の居場所を少しずつ広げていきました。今回は、Aさんが居場所を見つけるためにしたことと、そのプロセスで学んだことについてお話しします。


安心感を感じられる場所を探す


Aさんは、学校や職場で常に「話せない自分が責められるのではないか」という不安を抱えていました。だからこそ、安心して過ごせる居場所を見つけることが、彼女にとって最優先事項でした。


「居場所を見つける第一歩は、自分に合う環境を探すこと」と彼女は言います。彼女は、自分が話すことを強要されない趣味のコミュニティや、少人数の落ち着いたグループに参加することで、少しずつ安心感を得ることができました。


たとえば、絵を描くことが好きだった彼女は、オンラインのアートサークルに参加しました。チャットを使ってやり取りすることで、自分のペースでコミュニケーションを取ることができ、「話せない」というプレッシャーを感じることなく、趣味を楽しめる居場所を見つけたのです。


信頼関係を築くための小さな一歩


Aさんが言っていたのは、「自分を無理に変えようとしないことが、信頼関係の第一歩」ということです。彼女は、話せないことに対する申し訳なさや罪悪感を手放すことで、自分を受け入れてくれる人との関係を築けるようになりました。


彼女が特に意識したのは、「無理に話そうとせず、自分ができる範囲でつながる」という姿勢でした。たとえば、最初は「相手の話を聞くだけ」でも良いし、慣れてきたら「短い言葉やジェスチャーで反応を示す」ことでも十分。そうした小さなステップを重ねることで、彼女は少しずつ信頼関係を築いていったのです。


居場所を見つけるための工夫


彼女が話してくれた、居場所を見つけるための工夫をいくつか紹介します。

1. 自分の得意なことや趣味を活かす

• Aさんの場合、絵を描くことや文章を書くことが得意だったので、それを活かせるオンラインコミュニティに参加しました。共通の趣味を持つ人たちとのつながりは、話すこと以外でのコミュニケーションを可能にしました。

2. 話さなくても良い環境を選ぶ

• 無理に対面で話す必要のない場や、チャットやメールでのやり取りが中心の場所を選ぶことで、余計な不安を感じずに参加できるようになりました。

3. 少人数のグループから始める

• 大人数の場ではなく、少人数で静かに過ごせる場所を選ぶことで、安心感を得ることができました。

4. 相手に期待しすぎない

• 自分の話せなさをすぐに理解してくれる人ばかりではありません。それでも、自分を責めず、少しずつ信頼できる人を見つけていく姿勢が大切だと彼女は言います。


居場所がもたらす安心感


Aさんが自分の居場所を見つけることで得られた最大のメリットは、「自分は一人じゃない」と感じられることでした。話せないことが当たり前に受け入れられる環境では、彼女は自分を否定することなく、ありのままの自分でいられるようになりました。


「話せなくても、私をそのまま認めてくれる人たちがいる。それが居場所の力だと思う」と彼女は言います。その言葉には、居場所を見つけたことで得られた安心感と喜びがにじんでいました。


私たちが支える側としてできること


場面緘黙症を抱える人たちが自分の居場所を見つけられるようにするために、私たちができることは何でしょうか。Aさんの経験を通じて、次のようなポイントが大切だと感じました。

1. 話すことだけを求めない

• 話せないことを理解し、その人のペースを尊重する。

2. 多様な表現方法を認める

• メモやチャットなど、言葉以外の方法でのコミュニケーションを積極的に活用する。

3. 安心できる雰囲気をつくる

• 失敗を責めない、話さないことを特別視しない環境づくりが重要です。


私が学んだこと


Aさんが居場所を見つけるために努力する姿を見て、私自身も「安心感」の大切さを改めて感じました。人は、安心できる環境があって初めて、自分の可能性を広げられるのだと思います。その居場所を一緒につくる手助けをすることが、私たちにできる支援の形なのかもしれません。


次回は、Aさんが場面緘黙症の経験を通して学んだ「強さ」について、彼女の言葉を中心にお話ししたいと思います。彼女の成長から、私たちも大切なことを学べるでしょう。

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