異郷にて

佐倉ソラヲ

幼い日――壁の中

 見下ろした階段の下に、歪にひしゃげた人間が転がっていた。

 寒空に晒され、頭から流れた血が水たまりを作っている。


 少年はただ、そこに転がっているが冷えていく様を茫然と眺めるだけだった。


 もう動くはずもないのに、その顔だけは今にも瞬きしそうな程に綺麗なモノだった。


 異変に気付いた近所の人たちがアパートから出てくる。

 その声に、少年は次第に現実感を取り戻していく。


 あぁ、そっか。

 そうだ。


 俺が殺したのか。


 雲を掴むような実感だったソレが、じわじわと形を帯びていく。

 逃げ出す気は起きなかった。どこに逃げればいいのかわからないし、逃げたとしても、すぐに捕まることはわかりきっていた。

 だからこうして佇むことしかできなかった。


『干渉者』として覚醒してしまった自分がこの先どうなるか。

 張りぼての空の向こうの、

 遅かれ早かれ、少年はそこに行くことになっていた。

 だから絶望などしなかった。

 人を殺した自分には、お似合いの地獄が広がっているのだろう。


 年端もゆかぬ、幼い目をした少年は、ただ自分がそこに連れて行かれるのを待つだけだった。

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