第20話 いや、それは羨む様な事じゃない
20 いや それは羨む様な事じゃない
篠塚ココの家で――篠塚ココを看病する。
その提案を前にして、恋矢は息を呑むばかりだ。
一体どんな顔をして、ココの家族に会えばいい?
〝大切なお嬢さんに怪我をさせてしまって、申し訳ありません〟と土下座するべきか?
少なくとも恋矢としては、ココの家族にあわせる顔がない。
だが、深い後悔と罪悪感に苛まれている恋矢は、それでもココに酬いたかった。
ココが恋矢に看病を求めるなら、それに応じるのが筋だと思う。
自分がココに怪我をさせたと感じているなら、そう考えるのが自然だ。
恋矢が拒絶の意を示さなかったのはその為で、彼は半ば死さえ覚悟する。
ココの父親に殴り殺される事さえ視野に入れ、彼は大きく息を吐く。
「――分かった。全ては、俺の所為だ。
ココの面倒は――俺が責任をもってみる」
「はぁ。
妙に気合が入っているね?
もしかして二人きりなのをいい事に、やましい事でもしようと思っている?」
生まれたばかりの赤子の様なピュアな表情で、ココは首を傾げる。
恋矢はその意味を理解するまで、大分時がかかった。
「……え?
今、なんて?」
「だから、二人きりなのをいい事に――」
「――何で二人きりなのっ?
ココさんのご家族は、現在ご不在なんですか――っ?」
もう焦燥するしかない、恋矢。
ココはと言うと、相変わらずマイペースだ。
「それ、完全に女子の反応だよ?
言っている事が、完全に乙女。
それに比べ、家と言う密室で二人きりになる事を提案した私って、男らしくない?」
「………」
此奴、もしかして俺を家に招いて、あらぬ事をする算段か?
兎は俺で狼はココなのでは?
恋矢としては、己の立場を自覚する他ない。
「まあ、そういう事だから、恋矢も気軽に考えてよ。
二人きりなんだから、気を遣う必要なんてない。
何時もの様に鬼神の如き形相で、私にツッコミを入れてくれればいいから」
「………」
アレ?
もしかして俺、彼氏じゃなく、お笑いコンビの相方だと思われている?
ココにとって俺の存在とは、その程度の物なのか――?
いや、それ以前にココは恋矢を男としてみていない。
完全に舐められている恋矢としては、もう奮起するしかなかった。
「おお!
やったるわい!
看病でも何でもやってやるから、ココは精々後悔するがいい!」
「うん。
何かのフラグにしか聞こえないけど、お願いね。
本当に、私を押し倒す所まで行けば大した物だわ――と言ったら怒る?」
「……はっ?
何を言っているんだ、ココはっ?」
「いえ、何も。
じゃあ、さっそく帰りましょうか」
「………」
常の様に微笑む、ココ。
看護師にお礼を言って病室を後にした二人は、そのまま彼方へ向かう。
その間、空は曇って、にわか雨になった。
お蔭で二人は、早足で目的地に向かう。
ココに案内されてその団地にやってきた恋矢は――緊張の余り思わず硬直した。
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