第11話 ココの私服

     11 ココの私服


 先に待ち合わせの場所に着いたのは、制服姿の鞄を持った恋矢だった。


 ココの――私服姿。


 そう言われた時、恋矢の反応は鈍かった。

 普通の男子なら、ココのプライベートな姿に憧れを抱く筈だ。


 だがこの男、実は制服姿の女子にしか欲情しないド変態なのだ。

 その為、恋矢はココの私服姿にさえ興味がない。


 私服? 

 私服って、何さ? 


 制服の破壊力に比べたら、私服など爆竹にさえ満たない。

 制服と私服を比べるなど、天に唾する行為その物だ。


 それは女子高生にとって、実に危険すぎる思想である。

 それ程の変質者である天井恋矢は、待ち合わせ場所でココを待つ。


「……って、何か今、俺の名誉が不当に棄損された気がする」


 そうぼやく恋矢の背後から、声がかかった。

 紛れもなくココの声だったので、恋矢は何の迷いもなく振り返る。


「お待たせ、恋矢」

「………」


 そこには、半袖のTシャツにホットパンツ姿のココが居る。

 洒落たサンダルを履いた彼女は確かに制服姿とは別人の様だ。


 いや。

 このとき天井恋矢は――篠塚ココのホットパンツの破壊力を目の当たりにした。


(――な、にっ?)


 それも、その筈だろう。


 嘗ては短いスカートが流行だった女子高生も、今はスカートが長い。

 加賀敦という例外も居るが、平均的に言えば女子のスカートは長いのが当然だ。


 そのため恋矢も――ココの生足という物をお目にかかった事がなかった。


 制服越しに知っていたつもりだが、篠塚ココはスタイルがいい。

 腰の高さからして、他の女子とは違う。


 その分足が長くて、理想的なラインをしていた。

 細くも無く、太くも無いその太ももの肉付きは、恋矢でなくとも魅了するだろう。


 女子とは何故、こんな無防備な姿を晒せる? 

 これはもう可愛いを通り越して、エロい。

 

 いや、彼はこの時、初めて自分が足フェチだと気付いたのだ。


(まさ、か――こんな事がっ?)


 女子のスカートは長いという不遇な時代に生まれた、天井恋矢。

 お蔭で彼は、自分の性癖さえ知らなかった。


 彼はこの時――遂に男として報われたのだ。


「あの。

 自分から悩殺するといっておいて何だけど、これって極めて普通の格好だよ? 

 恋矢がそこまで、感動する様な姿じゃない。

 ……それとも、恋矢は私に気を遣っている?」


「………」


 いや、〝そうではない〟と言いたいのだが〝そうだ〟と言っていた方がいい気がする。

 このままだと恋矢は、ココに変態の烙印をおされかねないから。

 

 そう考えあぐねている恋矢に、ココは素っ気ない態度を見せた。


「そ。

 やっぱり私では、恋矢の心を射止められないんだ? 

 ――残念だわ」


「……はっ?」


 いや、ココは恋矢と付き合い始めてから初めて、素っ気ない態度をとった。

 普段は笑顔を絶やさないココが、急に素っ気なくなる。


 そういうギャップに惹かれた恋矢としては、もう正直な気持ちを吐露するしかない。


「……いや、良く似合っている。

 正直……ここまでとは思わなかった」


「………」


 目を逸らして拗ねる様に、彼は思いの内を語る。

 お蔭でココは、愕然とした。


「……ヒロイン属性」


「……へ?」


「そのツンデレ丸出しの表情は、やっぱりヒロイン属性その物だよ。

 何で恋矢は、こうも私をキュンキュンさせるの――?」


「………」


 絶対――褒められてねえぇぇぇ。


 寧ろ男としての尊厳を、傷つけられた思いだ。


 天井恋矢は頭を抱えるしかなく、遂にスマホで恋矢を撮り始めたココを眺めるしかない。

 

 二人の埋葬月人に対する調査は――こうして始まりを告げたのだ。

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