不安と自己嫌悪
花月 零
第1話
小学生の頃から正直異常だったと思う。変に目立ちたがりで、いつでも一番じゃないと落ち着かない。そんな小学生時代だった。
当時の私は人懐っこくて、学年も性別も問わず誰でも友達、誰でも仲良し。二年生まではそれでまかり通っていたけれど、少しずつ変化が起き始めた。
三年生に進級して、一学期はまだ二年生の時と変わらずにみんなと仲良く遊んだり、話したりしていた。けれど、二学期になってから周りも私も成長して、男子のことを友達というよりも異性として意識し始めるようになってから環境が一変した。
変わったのは周りというよりも、私の見た目。三年生の頃から燃費が悪くなったのかご飯を沢山食べるようになって、どんどん太っていった。中身は変わっていないのに、外見が変わって友達から少しずつからかわれるようになった。特にひどかったのは男子。一時期、あだ名で力士と呼ばれていた時期もあった。けれど、それに関して特に何も思っていなかったし、別にどうでもよかった。
時は進んで、五年生になったころ。私はさらに体重が増え、当時の小学5年生女子の平均体重は34㎏なのに対し、私は49.2㎏と約15㎏も重かった。体重と身長が比例していればいいではないか。と、思われそうだが、身長と体重の比率なんて小学生には理解できない。健康診断の時に男子に横からのぞき込まれ、嘲笑されたのを覚えている。
小学校を卒業する頃には、体重は60㎏手前にまでなっていた。ギリギリ超してはいない。が、小学生女子と考えると一般的には肥満と言える。そんな体系だった。それでもまだ、両親や祖父母から可愛がられて育った私は、特にそのことを気にも留めていなかった。
そんな生活、考え、そして私の性格が全て壊れたのが中学生になってからだった。中学に進学する直前、今なお流行し続けている某新型ウィルスの日本上陸により、小学校は二月で臨時休校。卒業式も短縮、中学校は入学式こそ無事に挙行できたものの、また二ヵ月の休校。六月に入ってようやく学校生活が始まった。
中学に入っても私の目立ちたがり屋な性格は変わらず、委員会も学校行事の実行委員会を引き受けた。クラスをまとめて、開始のアナウンスや賞状の授与を手伝ったりする仕事が主で、私にはぴったりだと思っていた。
が、実際に委員会の仕事が始まるとあまりうまくいかない。練習をまとめるために前に立っても、テンションが上がったクラスメイトが話を聞いてくれなかったり、男子のパートがうまく音が出ていなくて、練習につきっきりになって、自分のパートのリーダーから「音外れてる」と指摘されてしまったり、本当になにもかも上手くいかなかった。その時に私はまとめ役には向いてない。私なんかがやるべきではなかった。と、どうしようもない後悔が襲ってきた。
本番はなんとかなったものの、賞の受賞は何もなかった。強いて言うのであれば個人賞を指揮者をしてくれたクラスメイトが受賞しただけ。本当に、私は無駄だった。いらなかった。
それからなんとなく、クラスの男子とギスギスしたまま中学一年生としての学校生活は終わった。
そして、二年生になった。仲の良かった友達とクラスが離れてしまい、少し落ち着かない新しいクラスで、新しい友達と担任の先生と新生活が始まった。
年間で最初の学校行事である運動会。私が通っていた学校では目玉種目として、三学年合同で組対抗応援合戦があった。もちろん、練習は三年生中心で行われ、二年生も中堅学年として自分なりに精一杯練習に励んでいたのだが、とある男子生徒達の身の入っていない練習が、担任の逆鱗に触れてしまった。あるあるといえばあるあるの出来事ではある。小学校でよくみられる先生が起こって職員室に戻るあれだ。
ただ、担任は職員室に戻るのではなく、教室の教卓の横に置いてあった普通の生徒用の机のあまりを蹴飛ばした。何を言っていたのかは位置的に聞こえなかったが、あの時の担任を思い出すだけで全身から変な汗が噴き出してくる。それぐらいに強烈な出来事で、私が“人間”に対しての恐怖心を覚えた初めての瞬間だった。
六月に入って私の身体に変化が現れた。その日はいつも通りに美術の授業を受けていて、制作の時間も終わって先生の締めの挨拶を聞いていた時、急に息苦しくなってきた。過呼吸というわけではないが、呼吸の仕方がおかしい。三回細かく吸って、一回吸った分を大きく吐く。私は先生の話に集中していて、なんとなく、息苦しいとしか思っていなかったが、横に座っていた友達が呼吸の仕方が変だと先生に報告し、私は保健室に行くことになった。
二時間ほど保健室で休ませてもらったが、呼吸は元に戻らず、手が震えだしたためその日は早退。病院に行っても異常は何も見つからなかった。
それを皮切りに、私はどんどんおかしくなっていった。いままではスルー出来ていた男子から向けられる好奇の目、授業中の私語、休み時間の廊下の雑踏。全てが恐怖対象に変わってしまった。だが、こんなことを両親に言っても何も解決しないし、一日だけでも休もうとすれば、うっとうしさを込めた声色で普段通り話される。学校も家も怖くなり、どうしようもなくなった。例えるならば、サスペンスドラマで断崖絶壁に追いやられて後ろは海、そんな状況だった。
追い詰められて、誰にも相談できずに声を押し殺して泣くようになった。夜が怖くて、寝付けずに朝を迎えることもあった。そんな私の心を落ち着かせてくれたのが自傷。世間一般ではリストカットと呼ばれるそれだけが私の支えだった。断じて切ることで快楽を得ているわけじゃない。傷口からぷつり、と漏れ出す血を見て、まだ生きているという実感を得たかっただけだった。学校では万が一にでも見られてはいけない。病みアピ、気持ち悪い、かまってちゃん。そう言われるのは明白だからだ。
傷を作り始めて約一週間経ったころ。遂にというべきなのかは分からないが本当の限界を迎えてしまった。毎朝なっている時報がうるさくてたまらない。昨日まではこんなことなかったのに。
この日から、私の「普通」からかけ離れた生活が始まった。
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