§2§  松田琴

 チロルの扉には、〈本日 15時から16時 にいくら編み物教室〉と書いたプレートを下げていた。


「あの」

 その女子が次の言葉を言う前に、「編みもの教室ですね」と、奈々子はカウンター席から立ち上がった。

「講師の新倉奈々子にいくらななこです。よろしくお願いします」

 今日のために手書きで作った名刺を出した。


松田琴まつだことです」

 女子は神妙な顔つきで奈々子の名刺を受け取った。

 それを腕にさげていたジッパーつきのナイロンバッグにしまって、「お願いします」と一礼した。

 申込書の年齢欄には13才とあった。中学1年生だろうか。


「今日は、編みたいマフラーの模様や種類を決めましょう」

 奈々子は女子を奥まったところにあるテーブル席に連れて行った。


 そこは周囲を壁に囲まれている。周りの目を気にしなくてよいから、編み物に集中できる。

 すでにテーブルには奈々子の私物の編み物本を一抱え、それからタイルの床に、毛糸の入った段ボール箱3箱が床に並べてあった。


 かららん。

 また、チロルのドアベルが鳴ったのが聞こえた。


「こんにちは」

 今度はグレーヘアの女性が入って来た。

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