第6話

 この世は生者の手のうちにある。

 生きて残るが全てに勝る。


 泥を吸って枝葉伸ばし、見事に白く咲くそれがマグノリア。


 結果求める人々押し寄せ、それに答える、それが聖女。

 それ以外の生きる道を知らぬし、それ以外の生き方に意味など見出せぬ。


 マグノリアは治療院で、押し寄せる人々を求められるがまま癒した。

 

「マグノリア」

。来ていたのね」


 褐色の肌で鎧のような筋肉を包んでいる精悍な顔をした男は、彼女の手を取り指先にキスをした。


「君は偉いよ、マグノリア。人々に仕えて、幸せを与えて」

「そんなことはないわ、ジーニアス」


 人々が押し寄せる治療院の片隅で行われたジーニアスによる癒しが、マグノリアに力を与えてくれる。

 それを、ジーニアスは知らない。


「でも、ちょっと嫉妬しちゃうな」

「……え?」

「君が、僕だけのものだったら良かったのに」

「ジーニアス……」


 彼は知らない。

 マグノリアにとって、既にジーニアスが全てであることを。


「無理なのは分かってるよ」

「でも、ジーニアス。私の個人的な愛は、アナタだけに捧げるわ」

「マグノリア」


 彼の手を包み込むように握ったマグノリアを、ジーニアスは抱き寄せ、その唇に甘いキスを落とした。


 甘く、甘く蕩けるようなキスが、彼に命を与えていることをジーニアスは知らない。

 そしてマグノリアは、その力がどこからきているのかを、よく知っていた。


「君とのキスは、とても甘いね」

「ふふ。ふたりだけの秘密よ、ジーニアス」


 それはマグノリアだけが知っていればいい秘密だ。

 彼のために地獄へ落ちるというのであれば、喜んで落ちよう。


 人々を白き力で助けるのは、彼女にとっては贖罪であり義務なのだ。

 善意ではない。

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