不完全な私と不透明な女幽霊
ダイダライオン
不完全な私と不透明な幽霊女
「はぁ、もう!何なのあのクソ上司!」
今日は定時で上がりたかったのに、クソ上司のせいで残業になってしまい、すっかり夜も更けてしまった。
そして今、家までのそのそ歩きながら一人で荒狂っている。
こういう時にやけ酒とか出来たらいいんだけど、生憎、私の体とお酒の相性は悪いから言葉にする事で発散している。
心底むしゃくしゃしながらも、悪口を吐きながら疲れた体を引きずって家へ向かっていく。
「あれ……鍵が無い……」
鞄をガソゴソと漁るも、鍵が、無い。
「はぁ、もう嘘でしょ……」
ここに来て家に入れないと来た。深くため息をついて、疲れて動けなくなった体はずるずると玄関前に座り込む。
やっぱり暴言は良くなかったかぁ……。
と、焦るわけでも、探しに行く訳でもなく、ただよく分からない事を考えて蹲っていると、大学生くらいの女の子が私の顔を覗くようにしてしゃがんできた。
「ちょっと、そんな所で何してるのお姉さん」
「ん、あ、実は、鍵無くしちゃって……」
なんでこんな夜中に居るんだとか、あんた誰だよ、とかいう考えは何故か生まれなくて、気づけば自然と口を開いていた。
「ふーん。じゃあちょっと待っててね」
「うん……、……うん?」
私の頭をポンと撫でて立ち上がった女の子は当たり前かのようにドアに上半身を突っ込んですり抜けていた。
それと同時にガチャという音を立ててドアが開いた。
「はい開いたよ〜」
「え……?は……?」
「何してるのお姉さん。ドア開いたよ?おいでおいで」
そう言いながら手招きしてくる女に、気づけば惹かれるようにして蹲っている状態から倒れ込む感じで体を玄関に入れていた。
「お姉さんって変な人だね」
あんたにだけは言われたくないよ。と、言おうとしたけど、ふっと冷静になって考えてみた。
この子は私の疲れが限界まで達し、幻覚と幻聴が重なりあって出来た産物なんじゃないかと。
うん。きっとそうだよ。うん……。
今日は早く寝た方がいい。そう思って立ち上が……ん?
な、なんで……!?どうしてか体がピクリとも動かない。
「ちょ、ちょっと体が動かないんだけど…!?」
そう言うと、玄関の廊下に座り込んでいる私を見下ろすようにしてしゃがんできた。
「仕方ないよ。だって、幽霊の私と口聞いちゃったじゃん。お姉さん。」
「……へ?」
なっ、幽霊……?口聞いちゃったから……?
どゆこと……?
てか玄関に座ったままなの嫌なんだけど……
……って、ん?待てよ?もしかして一生動けない、とかじゃ無いよね……?
「でも、一応動けるようにする方法はあるよ」
「ちょ、ちょっとそれを早く言ってよ…!」
「キス」
「ん?」
「キスだよ」
「へー。……ん?」
今、なんと………?
「動きたいなら、私とキスするしか無いよ」
「な、なんでよ……!?」
どういう理屈なわけ……!?
「私も何でかは知らないよ。ただ元々知ってた?分かってた?みたいな感じだし」
「な、何それ……」
いきなり現れた上に何処の馬の骨かも分からない奴にキスは嫌だし、かと言って動けないままってのも論外だ。
「てか、キ、キスの効力はいつまでなの……?」
「んっとね、たしかもって二日くらいかな?」
「みじかっ!?」
動くためにコイツと2日おきにキスしなきゃならないってこと!?
ん?というか、コイツは幽霊だし私に触れられないのでは……?
唇だけ合わせる形になればいいって事?
まぁ、仮にすり抜けるとはいえ小っ恥ずかしいけど、直でするよりかはマシ、なはず……!
「じゃ、じゃあ、キ、キスしていいよ、」
「分かった」
被せ気味にそう言った女は、目を瞑った。
困惑しながら見ていると、薄く灰色の光を出しながら、半透明の幽霊女の体はスーッと色づいていっていた。
ん……?なんか霊体っていうよりか普通に体が戻っていっているように見えるんだけど?
そしてその幽霊女の体に色づいていくのと同時に少しずつ体が動けるようになってきた。
それに気づいた私は急いで座っている状態のまま壁の方まで身を引く。
「じゃあ、キスするよ?」
「ちょ、ちょっと待って…!!動けてる、動けてるから……!?このままでいいじゃん……!?」
そう宥めようとしている間も、幽霊女は壁に右手をついて、左手で私の顎を持ち上げて動けなくしてきた。
「一分で霊体に戻っちゃうの。つまり1分経ったらお姉さんまた動けなくなるんだよ。それに、キスしていいって言ったのはお姉さんだからね?」
そう言い終わった後、幽霊女は私と真っ直ぐ目を合わせて来た。
わっ。幽霊っていう点を気にしすぎてて気づかなかったけど、まつ毛長いし肌綺麗だし結構美人。
じゃなくて……!ど、どうしようこのままキスされるの私……!?嘘でしょ…!?
どうすればいいか分からず足りない頭を動かしている間も、幽霊女は息がかかる距離まで近づいて来ていた。
「えっ、い、いや、や、やっぱりその……」
と、必死に身を引いて遠ざかろうとするも、検討虚しく言葉に詰まった瞬間に、私の口は、幽霊女によって塞がれていた。
そう、私のファーストなキスは、突如現れた幽霊女によって奪われたのだ。
〜作者〜
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
この後も色々書こうかなぁ、と思っていたシチュがあったのですが、なんか進まなかったので短編にしました♡
続き読みたい!っていう読者さんがいたら書こうかな〜……。って感じです!
不完全な私と不透明な女幽霊 ダイダライオン @daidalion99
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