死んでま寿司! 地獄ロケランちゃん。

やね斜裏

第1話 「はじまりの寿司」

 OL「地獄ロケラン」には悩みがあった。

 好物の寿司がAI化した。


 地獄ロケランは既に死んでいる。

 死後も電脳世界を楽しむことができるようになったのは60年ほど前からだ。

 希望すれば死後も働き、生前の生活をVRシミュレーションすることができる。


 寿司が好き過ぎて死んでからも寿司を食べるため、彼女はOLとして日々働き、給与を得て、寿司を堪能していた。

 そんな中、今朝突然「電脳世界の寿司を全てAI化します」とニュースがあった。

 彼女は「職人SEが作る変態的なクオリティの寿司」を愛していた。色、ツヤ、滑らかさ、味わい(甘さ、酸っぱさ、まろやかさ)の細やかな数値、シャリの固さ、粒のピクセル、解像度、思いもよらない様々な工夫、こだわりに日々感動して咽び泣いた。

 推しSEについて完全趣味のレビューサイトも作った。


 今、彼女が属する極秘なんでもAI化レジスタンス「諍いの錆」では、AI推進大手企業「ミュータント」への抗議声明文について会議が行われている。


「ロケランちゃん、あなたも何か意見を出して」

「寿司を、守りたい」


 ざわつく会議室。


「ロケランちゃん、あなたそんな自分だけの…」

「私、もう耐えられないの。海に出るわ」

「海は規制が…」

「マグロが、ハマチが、私を待っているの!」


 海への直接アクセスには職業権限がいる。

 現実世界の海をスキャンし模倣して電脳世界で再現しており、

 水質研究や、天気予報、船の管理などに使われている。


 しかし何故かこのところ、ミュータント社のマスコットキャラ「タコ」が海上に浮かんでいるのが目撃されている。


 それは現実にあるものなのだろうか?

 既に現実世界はミュータントに支配され、電脳世界でしか人類は存在していないのではないだろうか?


「電脳の海、なんてよく言ったものね」


 ロケランは、裏掲示板で仮想通貨を使ってチーターから買ったロケットランチャーを海上に構える。

 その口許は、ニマリと笑みを浮かべていた。


「死ね」


 - 続く -

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