playing a love game

第1話

大学の卒業単位も無事に取り終えた。


就職先もやっと決まった。


年明けには高校からの親友と旅行が決まっている。


だから私は完全に浮かれていた。




〈今日は実家戻るんだよね?〉



5年付き合ってぶっちゃけ結婚秒読みな同棲中の彼氏、梁川やながわ 俊介しゅんすけからの連絡に〈うん。明後日そっち戻るね〉と返事をする。



実家に帰省する前に美容院で髪をレッドバイオレットカラーに染めてもらう。



「この色最近人気なんですよ」



鏡越しに笑って会話を広げてくる美容師さんに、私は人見知りしつつ懸命に笑顔を浮かべて返す言葉を探す。



「そうなんですねえ……、」



こういう時はいつも泣きたくなる。


己のコミュニケーション能力に愕然したのは就活が始まってからだった。苦手だなという思いから致命傷になった。




SH/KIシキ遊佐ゆさくんと同じ髪色にしたいって若い子たちがよく来るようになって」


「SH/KIってアイドルの…?」


「そうそう!おねーさんもそうなのかと思ってました。違ったんですね」


「私、あまりアイドルとかわからなくて」


「僕も普段全然聴かないんですけど、お客さんにおすすめされて聴いてみたらめちゃくちゃ良くてびっくりしたんすよ。アイドルだからって敬遠してなめてました」


「あ、へえ、そういえば私の友達も好きだったかもしれないです」


「マジすか!えとね、僕のおすすめはー、」



楽しそうに口を回し続ける美容師さんにひたすら笑顔で相槌を打つ。

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