落下してきた少女

第1話

もう陽が傾きはじめた黄昏の廊下は最終下校時刻を過ぎているため、生徒は見当たらない。ひとり分の足音だけが廊下にこだまする。




入学してからずっと、私の靴音は寂しく鳴っている。



ここだけじゃない。

群れたくない、ひとりがいい、そんなこと微塵も思っていないのに、私はいつも独り膝を抱えて閉じこもっているように見えるらしい。




本心の叫びは、霧中のテールランプのように揺らいで、掬いあげてくれる人は現れないのだ。




無償の愛をくれると云われる親からも求められず、私はなんのために生まれてきたのか分からず、母なんてものが存在するのかどうかも怪しいくらい。



十数年、生まれてからずっと鉛の湯船に顔を押し付けられるように生きた。あんたは橋の下で拾った。私にとったらそれは冗談でもなんでもない現実だ。



誰かのために生きてみたい。友達や、恋人、家族、そのどれだって構わない。たった一人でいいから、そう思える人に会いたい。




交互に視界に映り込んでくる靴を眺めていたら、教室までたどり着いていた。




この扉の向こうは三十人分の机と三十人分の椅子が並んだ、あの教室がある。



電車を降りると、ホームがあると信じて疑わないのと同じように、扉の向こうには教室があると信じて疑わなかった。



しかし扉を引いて、教室に足を踏み込んだ時、そこはただの暗闇だった。



何も見えない、真っ暗闇。ぐっと一点を見つめると、幻影さえも浮かび上がってきそうなくらい、底なしの闇。



私の踏み出した足は、地面を掴む感覚は皆無のまま漆黒に呑み込まれた。



声を上げる間もなく、落ちた。

ひゅっと息を飲む。



吸い込まれるようにして落ち続け、ふっと気を失う寸前、教室の扉が閉まったのが見えた。

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