四季刻々

テトロドトキシン3.9

春嵐

春。甘酸っぱい恋愛の季節。しかし俺からしたら嵐の季節。

これは桜の散る少し前のお話。


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彼女とあったのは中学2年の頃。転校生としてきたんだ。名前は、桜木 風華。

見た目はストレートで肩ぐらいまでとどく長めの黒髪。

顔はクラスに一人は好きってやつがいるくらい可愛い。

性格ははじめはおとなしいやつだと思っていた。

家が近いし、席が隣だったこともあってすぐに打ち解けた。

趣味が合ったんだよな。俺と同じ吹奏楽部だったし。パートは違うけど。

登下校は毎日一緒だった。おかげで付き合ってる疑惑もあった。

ただここまではずっと幸せだったよ、最高だった。


高校生になった。俺らのとこはド田舎だからさ、テストに名前書けば入れんだ。

しかも近いのがそこくらいしか無い。だからみんな出て行くかそこ行くの。

俺も風華も同じ学校行ってさ、同じように登校して、帰って。

ただ悲しいかな、高校はもう大人に近い。恋愛の話も出てくるし、対人関係もある。

お折れはコミュ障だったから基本一人。でも風華は可愛いから話しかけられるんだ。

可愛すぎる人とか美人すぎる人よりも話しかけやすくて可愛い風華は人気だった。

そうなってくると陰キャな俺と風華がなぜ仲良しなのかと噂が立つ。

おなじ中学の奴らも面白がるんだよな。恋愛の話とか特に。

風華が優しさで話してるという話もあるが多分本人が聞いたら大笑いしただろう。

しかし女どもの中では付き合っているというのが濃厚らしい、違うのに。


夏にもなってくると他の奴らが俺になぜ仲が良いのかだのを聞いてくる。

特に多いのは風華の好きなものや趣味、私生活。

下心丸出しだから大抵はキョドってまともに話のできない人間のように振る舞う。

陰キャに軽い会話求めんな、何も話せねぇぞ。


クラスカーストだの、グループだのが決まりきっている中、俺は孤立していた。

主にコミュニケーション面の理由で馴染めなかったのだ。

それに対して風華はみんなのアイドル、誰にでも優しい陽キャ、みんなの憧れ。

そんな彼女と俺が仲いいせいで段々と周りからの俺への視線が冷たくなっていく。

冷たく、鋭く、痛い視線。

そんなものに小心者の俺は耐えられるはずもなく、段々と疎遠になった。


いや、疎遠にしていった。


もちろん風華から話しかけられることはあった。

一緒に帰ろうとか、飯食べようとか、遊びに行こうとか。

でも全てを断り、無視した。

コミュ障の俺には簡単だった。日陰を探して逃げるだけ。

太陽は自分の影を自分の光で見えないから。

光から逃げるなら

影に逃げればいいんだ。





















ほんとにこれでいいの?





















2年生になる頃には完全に縁は切れた、と思っていた。

まだ少し残っていたらしい。4月終わりのことだった。

どんな運命だろうか、また同じクラス。もうこんなのいらないってのに。

クラスに入ると同時に風華に声をかけられる。

スルーか軽くあしらうか判断をしていたがその数秒が命取りだった。


”ねぇ、私最近避けられてるよね。”


その一言で俺の脳は全て停止する。当たり前だ、陰キャは不意打ちに弱い。


”今日、私の家に来て。”


でかい声で、はっきりと通る凛とした美しい声で。


”絶対来てよね。”


嫌だ、その一言も出ない俺自身を殴り殺したかった。

結局行ったさ、行かなきゃ進まない。


”なんでずっと私のこと避けるの?”


家につき、彼女の部屋に座らされ開口一番、ぶっこんできた。

アホみたいに正直なこいつはそうするだろうと読んでいた。

流石に予防線はしてある。ただそれを実行するのに勇気と力がいるだけ。


’周りからの視線や風当たりが悪いんだ’


下地を整える。風華に勝ち筋通すには間違えは許されない。


”そんなこと関係ないじゃん、君と私の関係でしょ?”


当たり前のように反論してくる、予想無いだろ、頑張れよ俺、最後くらい勝とうぜ。


’格が違いすぎるんだ、月とスッポンどころの話じゃないくらい。’


当たり前を、普通を教えてあげるんだ。


”そんなのどうでもいい、私は君の意見が聞きたいの!”


そんなに言うならはっきり言ってやるよ。


’俺は、お前が大っ嫌いなんだよ!’


言ってやった、風華の目が潤み、怯む。


’俺には明るすぎて、もう直視できないんだ、差がありすぎて追いつけないんだよ...’


どんどん力が抜けていく、まだ耐えろ、顔を崩すな、合わせるな。


’もう付き合いきれないよ、もうほっておいてくれよ...’


諦めるな、あとひと押しだから。


’もう無理なんだ、俺らは高校生にもなったんだから別の道に行くんだよ。’


...終わった。過剰打点とも思うが風華にはこのくらいしなければ。


”...もういい。帰って。”


風華の一言。その後には泣き声が響いていた。俺は急いで帰った。






高校生活も早いもので、3年になった。4月。

俺は後輩と初めて関係を持つことになった。

先生からの推薦で高校の案内を任されたのだ。

そんな中であった後輩の一人、愛華。なぜか俺のことを気に入っている。


`先輩、遊び行きましょ?`


そういう彼女はポニーテールの髪を揺らす元気な子だった。

当たり前のように断ろうとしたが家までついてこられ俺の部屋まで上がる始末。


`先輩の部屋、なにもないですね。`


笑う彼女はどこか感情がなかった。何かを探しているような目。

陰キャはこういうのに敏感だが対処ができない。


`先輩の家これから毎日来ますね?`


そんな死刑宣告をされ、肩を落としつつ心の何処かで喜んでいた。

毎日帰りは捕まって、家に入ってきて、帰るだけの毎日。

そんな日が続いていたある日だった。


俺が後輩を家に連れ込んでいると噂が立っていた。

当たり前だろう、しかもその証拠も取られている。

そしてそのことは風華にも入るわけで。


”私のこと嫌いって言ってた割には可愛い娘と遊んでるね。”


ボソリと言われた一言により俺は学校から完全に浮くことになった。

そしてそのままの日が過ぎていくと思っていた。


3月はじめ。大学も無事決まり、卒業前。

急だった。家に来た愛華は笑うことがなかった。

部屋に入るなり封筒を取り出し俺に渡す。それは可愛く俺の名前が書かれていた。

曲のない綺麗な文字。多分だけど風華だ。


`私、風華ちゃんと仲いいんですよね。`


驚いたさ、何も知らなかったから。そんな話ここ一年で初めて聞いた。


`風華ちゃん、泣きながら私に言ってきたんです、好きな人に嫌われたって。`


二度目の衝撃。嘘だ、風華ならもっといい人を見つけられるはず。


`ラブレター、いつ渡そうかってずっとウキウキしてました。`


嘘だ、そんなはず無い。違う人と間違えてる、同姓同名の別人かなんかだ。


`写真見て、ずっとニヤけて。`


違う人だ、多分見間違いだ。


`でも一昨年の春頃からおかしくなったんです。`


俺が風華を避け始めた頃だ。


`だんだんつらそうになっていって、夜泣くようになったりして。`


無理して笑い過ぎだったんだ、みんなに気を配っていた。


`好きな人に避けられる、なにかしてしまったのかも、って。`


彼女を避けるやつなんているのか、驚きだ。俺ではない、そう思い込む。


`日に日にひどくなって、ついに去年、嫌われたと泣いて私のとこに来たんです。`


おかしい、すべてが俺のことと当てはまる。


`全部、あなたのせいなんです。`


嘘だ、風華は俺のことを友達だと思ってるって言っていた。


`あなたが自分の都合で避けて、自分の都合で嫌いだと言って。`


嘘だ、嘘だ嘘だ。


`自分の都合で終わらせた。`


全部、俺のせいだったのか。





















ほんとにあれで良かったの?





















大学生になった。違う大学だった。もう何も考えたくなかった。

思い出したくもなかった。

あのあと俺は追い出すように愛華を部屋からだし、泣いた。

タンスの奥にしまった手紙は開けていない。そのまま持ってきてる。

もう俺からしたら呪物だ。

大学でも人のつながりは最小限に抑えた。

過去問や情報をもらう相手だけ。

しかしそれでも悲しいかな、旧友のことは入れないようにしても入ってくる。


風華が精神崩壊して入院した


驚いた、帰るか迷った、結果、帰らなかった。

今更俺が言って何ができるっていうんだ。誤っても許されはしないだろう。

しかし親が帰ってこいとうるさいので帰省も兼ねていくことになった。

あの日以来だ、どんな顔すればいいんだろう。

悪いとは思ってる。しかし謝ることはできるだろうか。

取り敢えず封筒と一緒に夜行バスに乗り込んだ。


ついてすぐに病院に連れて行かれた。

ついてすぐに病室に通される。おかしい、なにか胸騒ぎがする。

入ると同時にその理由がわかる。ぬいぐるみだらけなのだ。

風華がいた。しかし髪は伸び切ってボサボサ、やせ細って可愛さのかけらもない。

そして彼女の手には俺に似た人形。手作りなのがわかる。


”...君のためにハンバーグ作ったの。どう、美味しい?”


そう話しながらハンバーグを人形に押し付ける。

しかし一向にハンバーグは減らない。


”...ねえ、なんでよ。なんで、なんで嫌いになっちゃったの?”


嘘だったのに。ずっと引きずっていたのだな。

看護師さんに入るよう促される。


’...失礼するぞ。’


入ると同時に怒号が飛んでくる。


”私の部屋に来ないで!!!”


ここまでおかしくなった理由を聞くと男に言い寄られて襲われかけたらしい。

そして俺だけを求めるようになったのだとか。

引きこもってばっかなので病院に無理やり入れたら俺に助けを求めたらしい。

まだ俺を忘れられなかったのかと思いつつ外から会話を試みる。


’なぁ、俺だよ。’


ゆっくりと、優しく話しかける。


’その、さ。ごめん。’


謝罪をしなければ。


’俺さ、コミュ障なの直したくて心理学科の大学行ったんだぜ’


少しも頑張っていない高校生の俺に言うべき言葉を風華に投げてしまった自分。

それに嫌気が差し頑張った結果。


’少しでもお前といれるようにさ。近づけるように。’


’当時の俺は諦めてた。多分自分に自身がなかった。’


’そのせいで周りから冷たい目で見られて。’


’でもそれは俺のせいだったんだ。’


’頑張ろうとしない、諦めた俺のせい。’


’なのにお前を突き放して、辛い思いさせてさ。’


’だから言いたいんだ、ごめん。俺が悪かったんだ。’


’ほんとは大好きだったのに、嘘ついて、俺のせいで全部壊しちゃって。’


’ごめん、ほんとにごめん。許せとは言わない、でも戻ってきてくれ。’


’風華が、大好きだから。’





















ほんとにこれで良かったのかな?





















あのあと、何度も通った。

ゆっくり、ゆっくりと俺のことを思い出していってくれて。

許してくれたわけでもなかったけど、もう一度1から初めて。

外に出るといったときの嬉しさはすごかった。髪切りに行くと言って俺と一緒に。

外に出てびっくりしたのか、ずっと俺の腕を掴んでこわがっていた。

それでも頑張ってもとに戻っていって。

愛華が顔を出したときに怒られた。


先輩なにしてたんですか、ここまでもとに戻ってるなんて。私に教えてくださいよ。


そんなことをグチグチ言われたが、許してはもらえた。


多分これからも俺は彼女につきっきりだろう。

しかし俺はずっと一緒にいる。


だって





















’’君のことが、大好きだから。’






















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桜満開の今

ずっと繋がる愛の鎖

様々なことがあった彼ら彼女らにとって

その思い出は

春嵐となり

ずっと彼らを見守るだろう

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