第60話 天才の自負を持つ技術者も分からせる
「キミは確かあの時の……」
「ヴィブラレット・バアリスと申しますぅ」
「どうして俺をそんな目で……いや、待て。ヴィブラレット?」
それは、“ヴィブラレット陣法”を考案した老魔法使いの名前のはず。
「ヴィブラレットは、老魔法使いじゃ……」
「んぅー? ちょっとよく分からないですねぇ。とにかくわたし、あなたに大大大感謝なんですよぉ」
彼女が愛しい物を扱うかのように取り出したのは、俺が書いたあの紙だった。
「あの時ユミリシス様が書き加えて下さったから、陣法が完成しましてぇ。それがなかったら、不完全なものだって気づくのにもっと時間が掛かってましたぁ」
「そ、そうなのか……」
「あ、これ、あの後すぐに作った老化防止薬ですぅ。お嫁さんたちにどうぞぉ」
ケースに大量に入った老化防止薬を渡される。……ん? 老化防止薬?
「……もしこの老化防止薬を、俺が追記する前の不完全な陣法で作っていたらどうなってた?」
「んぅー? えっとぉ……あー、失敗してわたしがお婆さんになってましたねぇ。うわぁ、また一つ恩が増えちゃいましたぁ、えへへ」
まさか老魔法使い設定にそんな裏話があったとは。
「貴方のおかげでマジックアイテムの生産効率が上がって、製作可能物もぐっと増えたの。だからヴィブラレットが売上の一部を渡すべきだ、って」
「それとぉ、新しいマジックアイテムが完成するたびにユミリシス様に一個ずつ送りますねぇ」
要するにロイヤリティと見本品をくれるという事か。
そしてマジックアイテムの開発責任者がこの調子なら、もしかしたら。
「ヴィブラレット。キミは作りたいモノを作っているだけなのか、それとも作ったモノを広く普及させたいのか、どっちだ」
「んぅー? わたしは作れるだけで良いんですけどぉ、リリスリアちゃんがお金が欲しいって言うから手伝ってる感じですねぇ」
「だったらヴィブラレット。リリスリアも。俺と契約を結んでくれ」
告げて指輪の力を起動させれば、三つの円環が光を放ちながら回り出す。
――この指輪、“円環・至聖三者”が持つ一つ目の効果。
それは俺が実行可能な事象を、一時的に最大効果で実現させるというもの。
たとえばLv1で身に着けたスキルをLv5で使用出来るし、たとえば契約の
「俺との会話を絶対に漏らさず、共に作る技術を決して流出させない。誓ってくれるか?」
二人は指輪の絶大な力に言葉を失いつつ――あるいは魅入られたように見つめながら、コクコクと頷いてくれた。
……ルリが生み出せる魔石技術は戦争に特化しているから、内政に特化した技術者を探していたんだよな。ちょうど良かった。
という事で魔石に関する話をしつつ、ヴィブラレットを連れてカフカスへ。
メンショウが来るギリギリまで魔石を採掘する為、作業をしていたルリと合流したのだが。
ヴィブラレットを見たルリは、バネ仕掛けのオモチャのように硬直してしまった。
「ゔぃ、ヴィブラレット先輩……な、なんでここに……」
「うわぁ、ルリちゃん、ますます綺麗になったねぇ。結婚すると変わるって本当なんだぁ」
きゃあきゃあと黄色い声を上げながらルリを褒めちぎるヴィブラレット。
一方のルリは、リリスリアを前にした時とはまた違った、ギギギ……というブリキのような態度だ。
……こういうルリも可愛いな。
「ちょ、ユミリシス! どういう事!? なんで先輩がここに!?」
「ああ、魔石を使った内政用技術を研究してもらう事になった。ちゃんと秘匿契約は結んでるから安心してくれ」
「そうなんだよぅ。えへへ、今度はユミリシス様の元で一緒だねぇ、よろしくねぇ」
ルリが信じられない、といった表情を浮かべる。
「ヴィブラレット先輩が……他人を様付けで呼んだ……?」
「ユミリシス様に出会って、世界が変わったからねぇ。雷で打たれたような衝撃って、ああいう感じなんだぁって。それに、あの指輪の力……」
陶酔の笑みを浮かべ、両手で身体を
その姿勢はぎゅむっと胸が強調されるのでやめてほしい。
そしてルリ、目ざとく気づいて睨まないでほしい。
「あんな力を使って爆散せず平然としてるなんてぇ……もう生き物として次元が違うっていうかぁ。絶対に勝てないし、そんな人に求められたら尽くしたくなるよねぇ」
ヴィブラレットの言葉を聞いたルリは、深々と溜息を吐いた。
「はあぁ……そう、分かったわ。でもヴィブラレット先輩、アタシに気安く話しかけないでね。気が散るから」
「相変わらずツンツンだぁ。そんなだから友達が出来ないんだぞぉ」
「そ、そんな事ないんだから! ちゃんと友達いるんだから! アイルとか……、えっと……、……」
言葉に詰まったルリを見てヴィブラレットが笑い、キレたルリが即席魔法を発動して護符に相殺される。
そんなやり取りを見つめながら、中々見る事が出来ないルリの姿に苦笑しつつ、微笑ましさを感じるのだった。
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