第39話 SYU☆RA☆BA 2

 何日かに渡り続けられた合同演習は、ウルカの【天才】スキルをフルに活用した結果、極めて効率の良いものとなった。


 また、演習の合間にウルカの事を知ったメラニペは、思いの外あっさり第三夫人として受け入れてくれた。


「ウルカノ瞳ニハ覚悟ガアル! ソレニ、コノ演習デ強イ女デアル事ガ分カッタ! ダカラ良イ!」


 そして妹分が出来て嬉しいのか、ウルカを連れ回して魔獣たちと遊ぶメラニペの姿を見かけるようになった。


 魔獣に囲まれて顔が引きつっていたウルカには申し訳ないが、ウチでやっていくなら慣れてほしい。


「問題は、ルリとウルカの相性だよな……」


 軍団を引き連れてヴァッサーブラット領に帰還する道すがら、馬に乗りながら思いを巡らせる。


「ン? 二人トモ問題ナイト思ウゾ!」


 小型の魔獣に乗って並走してきたメラニペが、あっけらかんとした様子でそう口にする。


「そうなのか?」

「ウム! キット大丈夫ダ!」


 自信満々なメラニペの言葉。根拠は分からなかったが、彼女が言うならそうなのだろう、と思えた。


――そして無事に帰還した現在。領主館の庭先で、ルリとウルカが向かい合っていた。


「ふーん、そう。この子が手紙にあったウルカ・フォン・アウゲンブリックね」

「へぇー、この人が最強の魔法使いですか」


 金髪を風に靡かせながら腕を組み、赤い瞳を興味深そうに揺らすルリ。


 アッシュグレーの髪を弄りながら、月色の眼差しを探るように動かすウルカ。


「……、……」


 妙な緊張感が漂っていて、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまう。隣で魔獣にくるまって寝ているメラニペが羨ましい。


「それで、ウルカは何が出来るの?」

「何でも出来ますよー。私に出来ない事はないです」

「この子の言ってる事は、本当? ユミリシス」

「ああ、間違いない」


 ウルカを上から下まで眺めながら、ルリが考え込むような仕草をする。


「ユミリシスは、政略結婚だけどこの子を愛せるの?」

「愛せる。もちろんルリやメラニペの事も、ウルカの事も疎かにはしないぞ」

「ん、それは分かってるから大丈夫。……で、ウルカ。あんたがユミリシスを好きな理由は何?」


 ルリがウルカに切り込んだ、そんな印象を受ける問いかけだった。


「なるほどなるほど。次の質問がそれですか。んー、良いですけど、ユミリシスおにーさんには席を外して貰えます?」

「席をって……俺には聞かせられない事なのか?」

「言ったじゃないですか。悩んで悶々として、どうしても我慢出来なくなったら教えてあげます、って」


 いや、そこまで隠されると気になるんだが。


「ふーん、そう。ユミリシス、短い期間で随分仲良くなったみたいね?」

「そうなんですよ。おにーさんってば、私の足を舐めようとするくらい大好きみたいで」

「ふ、ふーん……そうなんだ。確かに綺麗な脚をしているものね?」

「いや、待てルリ。ウルカも誤解を招くような事は言うな」


 ジト目のルリとニタニタ顔のウルカ。これはマズイ流れなのではないだろうか。


「そう言えば、ルリおねーさんも綺麗な脚ですね。やっぱりユミリシスおにーさんに舐めてもらってるんですか?」

「脚を舐められた事はないけど、二人揃ってる時は朝と夜、毎日キスしてるわね」

「へぇー。でもその様子だと、あっちの方はまだなんですか」

「……結婚するまではしない事に決めてるの」


 少し頬を染めて答えた後、コホン、と咳払いしてルリが言葉を続ける。


「それで、時間稼ぎの問答はこんな所で良いかしら?」

「……はぁ。そーですか、見抜かれてましたか」

「ユミリシスも気になってるみたいだし、今すぐこの場で言ってほしいけど……本当にどうしても無理、って言うなら、席を外してもらうわ」

「良いです、分かりました。話しますよ」


 不満げに唇を尖らせたあと、ウルカが仕方なさそうに溜息を吐く。


「私がおにーさんを好きになったのは、似てたからです」

「似てるって、俺とウルカが?」

「“何でも出来るから、自分がやれば良い”――違いますか?」

「それは……」


 思わぬ言葉が飛んできて返答に詰まる。


「“最後に信じられるのは自分だけ”、みたいな。私よりもずっとつよつよで、沢山の人に囲まれてるのに、私と同じ孤独を抱えてる……だから放っておけなかったんです」


 この世界がゲーム世界である事も、自分が転生者である事も、誰にも話せていない。


 それを孤独と表現するなら、ウルカの言葉は間違っていないのだろう。


「っていうのが、私がユミリシスおにーさんを好きになった理由です。これで満足ですか、ルリおねーさん」

「……、孤独、孤独ね。そっか。自分の弱みも話す事になるから躊躇ってた訳か。お詫びに後でアタシの弱みも教えてあげる」

「ルリおねーさんのそういう上から目線、良くないと思いますよ?」

「ウルカこそ、世の中を舐めたような態度はやめた方が良いわね」


 二人の間にバチバチと火花が散っている気がする。……本当に問題ないんだよな? メラニペ。

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